税理士(中川区・港区・大治町・蟹江町・海部郡・名古屋市)税理士山田会計事務所|会社設立・開業・決算・消費税・確定申告・青色申告・相続・贈与・遺言・登記・給与計算・社会保険

 

山田会計事務所

税務・相続税・登記・開業支援・経営支援なら山田会計事務所 愛知県名古屋市中川区

HOME
事務所案内 サービス案内 報酬・料金 事務所地図 お問い合わせ
事務所だより・リンク集

 電話加入権をめぐる裁判


「電話加入権の引き下げで損害を受けた」としてNTTと国を相手に集団提訴がされました。

いまだに解決されていない、先送りされている社会的にも、経済的にも、税制(所得税法・法人税法・相続税法)の上でも大きな問題です。


  平成19年10月22日判決言渡

超巨大企業NTTの電話加入権はどうなるのでしょうか?


弱小庶民が、売上高にあたる営業収益が11兆5000億円、営業利益1兆3000億円という超巨大企業であるNTTと日本国を相手取った裁判について見てみます。


施設設置負担金という名の(電話加入権)が引き下げられ、損害をこうむったとして「電話加入権の損害賠償を求める会」メンバーの約100の個人と会社が日本電信電話(NTT)と国を相手に、約1億円の損害賠償を求める集団訴訟を起こした。


電話加入権はNTTの固定回線を設置する際に必要となるもので、2005年までは額面価格が7万2000円だった。それが今では半額の3万6000円引き下げられた。7万2000円で買った人は、3万6000円を返してもらえず損失を被った。


1997年、NTTはISDNにおいて「INSネット64ライト」という新しいサービスを開始した。これは加入権が不要な代わりに、毎月の基本料金に640円が上乗せされるというもの。

そして2002年からは固定電話でも「加入電話・ライトプラン」という、加入権不要、基本料金上乗せの制度を始めた。当時の7万2000円の加入権と比べると、9年4カ月以内の利用ならば割安になるというものだった。だが、現在では加入権が半額に値下げされてしまっており、加入者のメリットは少なくなっている。


わかりにくい専門用語について


@NTTの電話加入権
  
NTTの電話契約には主に4種あります。「INSネット64」「INSネット64・ライト」「一般の加入電話」「一般の加入電話ライト」です。
「INSネット64」「INSネット64・ライト」は、1回線で電話2回線分を利用できる電話契約です。
「一般の加入電話」は開始時に36,000円の電話加入権を買わなければいけません{NTTはいつの頃か施設設置負担金と名称を変えてしまった。
「INSネット64」「INSネット64・ライト」「一般の加入電話」「一般の加入電話ライト」の違いは、「ライト」は加入権の代わりに毎月250円負担金がかかる、1年で3,000円 12年で36,000円 簡単に言うと12年に分けて電話加入権を分割払いする契約です。


Aドライカッパとは
電気通信事業者所有の(銅製=copper)通信線路のうち、その事業者が使用していない回線の事を言う。


Bプライスキャップ制度とは

鉄道や電気など公共料金を決定する際に,物価上昇率などを考慮した上限価格(プライス-キャップ)の範囲内での申請を認める制度。政府がコストに適正利潤を上乗せする額を認可する総括原価制と比べ、企業が自社の判断で料金を決めることができる。1970年代に欧米で公益事業の民営化が進んだ結果、イギリスでは電気・ガス料金アメリカでは電気通信で導入された。


C会計上の処理(購入者)
電話加入権を買った法人や個人事業者は、そのときの購入価格で、無形固定資産として計上している。もし100回線を購入していれば、7,280,000円にもなる。これは損金・経費には落とせない。
会社が会計上、7,280,000円を損金処理したのなら、法人税の上では利益と考えして所得に加算される。
個人事業者の場合にも経費にならず、処理すらできない。事業主勘定で処理すれば資産を個人的に処理したとして別の問題も発生する。少額にしろ銀行・債権者等には不利、相続の時点での元入れ金勘定がおかしくなる。


D圧縮記帳(NTT)
NTTは加入者から預かっている、電話加入権の代金を電話線・電柱等の資産の取得費と相殺をしてしまっている。
これは、国が認めた会計処理で、つまりNTTの決算上、負債にはっきり計上されていない。


E矛盾
CDは相反する処理をしろと、国が法律で決めてしまっている、矛盾です。普通は売ったほうが負債ではなく、減価償却等で経費を減らして利益にしていれば、買った方は当然、経費ですよね。
話は違いますが、東京電力の福島原発の賠償費用等は特別損失という経費です。国が東京電力に資金援助したお金は特別利益です。つまり東京電力は国からの資金は借りているのではなく、もらったものです、「つまり返さなくてもよい」と国が決めてしまいました。
電話加入権は財産ですと言ってNTTは、売っています。でも買取はしません。という矛盾


F大きすぎて処理できない
「金額が大きすぎて返せない」NTTが売ってきた、2016年時点でもまだ売り続けている電話加入権は総額で4兆円を超えると言われています。もし本当に国民や企業に返したらいくらNTTといってもは倒産してしまいます。当期利益は7000億円しかないのですから。
国も、電話加入権は無価値だから経費で落としていいよ!相続税の申告についても1500円なんていうふざけた金額で評価をして税金の計算なんかいらないよ、無税・無税!といったら1兆円を超える税収が一気になくなることになります。


G時効
不法行為については 3年で時効、不当利得については10年で時効と定められています。

加入権をどんどんディスカウントしていき0円にする。当然ライトプランも同様です。不当利得の時効で考えると、2016年現在まだ、電話加入権のライトプランも存在しているので、すべてが時効にはならない。
まだ数十年、時間が経過するのを待つしかないのかもしれません?


H裁判記録を参考にお考えください。

平成18年(ワ)第11104号損害賠償等請求事件(第1事件)
平成18年(ワ)第14504号損害賠償等請求事件(第2事件)
平成18年(ワ)第19429号損害賠償等請求事件(第3事件)
平成18年(ワ)第19433号損害賠償等請求事件(第4事件)
平成18年(ワ)第25757号損害賠償等請求事件(第5事件)
口頭弁論終結日平成19年7月23日


判決


主文


1 原告らの請求をいずれも棄却する。


2 訴訟費用は原告らの負担とする。


事実及び理由


第1 請求

1 被告NTT,同NTT東日本,同NTT西日本及び同国に対する主位的請求被告らは,「電話加入権の損害賠償を求める会」総勢約100人の各原告に対し,連帯して,「損害金(円)」約1億円の金員及びこれらに対する別紙遅延損害金 年5%の割合による金を払え。


2 予備的請求(被告NTT株式会社,同NTT東日本及び同NTT西日本に対し)1被告NTT株式会社,同NTT東日本及び同NTT西日本は,別紙予備的請求目録1(略)「原告名」欄記載の各原告に対し,連帯して,同目録「損害金(円)」欄記載の各金員及びこれらに対する別紙遅延損害金起算日一覧表
(略)記載の「損害金起算日」欄記載の日から支払済みまで年5分の割合による各金員を支払え。


3 予備的請求(被告NTT株式会社,同NTT東日本及び同NTT西日本に対し)被告NTT株式会社,同NTT東日本及び同NTT西日本は,別紙予備的請求目録2(略)「原告名」欄記載の原告に対し,連帯して,同目録「返還金(円)」欄記載の金員及びこれに対する別紙遅延損害金起算日一覧表(略)記載の「損害金起算日」欄記載の日から支払済みまで年5分の割合による金員を
支払え。


4 予備的請求(被告国に対し)
被告国は,別紙請求目録1ないし5(略)「原告名」欄記載の各原告に対し,同目録「損害金(円)」欄記載の各金員及びこれらに対する別紙遅延損害金起算日一覧表(略)記載の「損害金起算日」欄記載の日から支払済みまで年5分の割合による各金員を支払え。


第2 事案の概要

本件は,電話加入権を保有すると主張する原告らが,被告らの違法な共同行為(適正料金設定義務違反,適正料金設定監督義務違反等)によって自己の電話加入権の財産的価値が減少し,損害を被ったと主張して,

@被告NTT株式会社,同NTT東日本及び同NTT西日本に対しては,主位的に債務不履行,不法行為又は不当利得に基づき,予備的に契約者を公平に扱うべき債務の不履
行に基づき,さらに原告a(以下「原告a」という。)については予備的に解除による原状回復請求に基づき,

A被告国に対しては,主位的に債務不履行又は国家賠償法に基づき,予備的に憲法29条3項に基づき,それぞれ損害金等の金銭を支払うよう求めた事案である(各主位的請求については連帯債務)。


第3 前提事実(争いのない事実及び弁論の全趣旨により認定できる事実)
1 当事者等


(1) 原告ら
原告らは,日本電信電話公社(以下「電電公社」という。),再編前の被告NTT株式会社,同NTT東日本又は同NTT西日本(以下,被告NTT東日本と同NTT西日本を併せて「被告NTT東西」といい,被告NTT東西と被告NTT株式会社を併せて「被告NTT」という。なお,電電公社を含めて「被告NTT」ということもある。)との間で加入電話契約を締結し,別紙請求目録1ないし5「加入権本数(回線数)」欄記載の本数の電話加入権を保有すると主張する者である(ただし,原告aについては加入電話契約は既に解除された。)。なお,これに関する被告NTTの調査結果は,別紙NTT調査結果一覧表(略)記載のとおりである。


(2) 被告NTT株式会社,同NTT東日本及び同NTT西日本


ア被告NTT株式会社は,日本電信電話株式会社法等に関する法律(昭和59年12月25日法律第85号)に基づいて設立された株式会社である。昭和27年8月1日,日本電信電話公社法(昭和27年法律第250号)により電電公社が設立され,電気通信省の公衆電気通信現業部門の業務を承継していたが,昭和60年4月1日,被告NTT株式会社の設立(民営化)により,同被告が,電電公社の加入電話契約に係る権利義務を承継した。


イ被告NTT東西は,東日本地域,西日本地域において地域電気通信事業を経営することを目的として設立された株式会社である。
平成11年7月1日,被告NTT株式会社から,被告NTT東西及びエヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ株式会社が分社して設立され,被告NTT株式会社は持株会社となった(NTT再編)。この際,被告NTT株式会社の加入電話契約に係る権利義務は被告NTT東西がそれぞれ承継した。


(3) 被告国


ア 総務省
総務省は,被告NTTの監督官庁であり,総務大臣は被告NTTの各種重要事項の認可権限を有する。明治23年,我が国において電話事業は国営事業として開始され,逓信省の所管とされた。昭和24年6月,逓信省は郵政省と電気通信省の二つの省に分離され,電気通信省が電信電話事業を担当することとなった。さらに昭和27年8月1日,電電公社の設立とともに電気通信省は廃止され,電気通信監督行政は郵政省が引き継いだ。そして,平成13年1月,中央省庁再編により,郵政省は自治省及び総務庁と統合して総務省となり,通信事業は同省の監督下に置かれることとなった。


イ 財務省
財務省は,被告NTTの各種重要事項の認可にあたり,総務大臣が財務大臣と協議する必要があるという意味において,被告NTTに対する監督権限を有する。


ウ 公正取引委員会
公正取引委員会は,私的独占,不当な取引制限及び不公正な取引方法による違反事件の調査や審決を行う権限を有している。


エ 国会
国会は,国の唯一の立法機関である。


2 被告NTTが提供する通信サービスの種類


(1) 電話サービス
電話サービス契約約款に基づいて提供される通信サービスをいい,この中の加入電話サービスが最も一般的な電話サービスである(電話サービス契約約款としては,現行(平成18年6月15日改訂後)のものとして,被告NTT東日本につき乙A第1号証,被告NTT西日本につき乙A第2号証があり(以下これらを「電話約款」という。),過去の約款として,被告NTT株式会社に係る昭和60年4月1日施行の甲A第44号証(以下「昭和60年電話約款」という。),平成8年2月1日施行の甲A第45号証(以下「平成8年電話約款」という。)がある(ただし,これら過去の約款は,いずれも施行後に改訂を経たものである。))。加入電話サービスについては,電話約款上,契約成立時に施設設置負担金を支払うこととされており(74条,料金表第2表第1),そのほかに月ごとに基本料,通話料を支払うこととされている(69条,料金表第1表)。


(2) 総合ディジタル通信サービス(ISDN。商品名「INSネット」)総合ディジタル通信サービス契約約款に基づき提供される通信サービスをいう(同契約約款としては,現行(平成18年6月15日改定後)のものとして,被告NTT東日本につき乙A第3号証,被告NTT西日本につき乙A第4号証がある(以下これらを「ISDN約款」という。なお,電話約款について引用する場合は,原則として乙A第1,2号証を挙げることとし,特に必要がない限り,ISDN約款(乙A3,4),昭和60年電話約款(甲A44),平成8年電話約款(甲A45)には言及しない。))。安定・高品質な通信が可能なディジタル通信サービス(ISDN)であり,この中の第1種総合ディジタル通信サービス(商品名「INSネット64」)の場合,1回線で電話2回線分が利用できる。なお,(1)の電話サービスとISDNを併せて,固定電話(携帯電話に対するものとして用いられる一般的用語)と呼ばれることがある(以下においては,(1)の加入電話サービスと(2)のISDNを併せて「加入電話」という。)。INSネット64についても,ISDN約款上,契約成立時に施設設置負担金を支払うこととされ(53条,料金表第2表第1),そのほかに月ごとに基本料,通話料を支払うこととされている(48条,料金表第1表)。

(3) タイプ2の契約(商品名「ライトプラン」)
加入電話サービス及びINSネット64には,それぞれライトプランと呼ぶ料金プランがある。加入電話サービスについては電話約款7条2項に「加入電話契約タイプ2」と,INSネット64についてはISDN約款6条2項に「第1種契約タイプ2」として定められており,施設設置負担金の支払を要しないが,施設設置負担金を支払う(1),(2)のプランに比べ,月々の基本料が高額となるものである。ライトプランは,INSネット64については平成9年7月から(商品名「INSネット64・ライト」),加入電話サービスについては平成14年2月から,それぞれ提供が開始された。


3 事実経過の概要


(1) 我が国における電話事業の開始
明治23年,我が国における電話事業が国営事業として開始された。開業当初は申し込めばすぐに無料で開通されたが,申込増加に伴い順番待ちの状態(電話積滞)が発生した。そして,日清戦争を経て,電話の需要は激増し,このような中,自然発生的に電話の売買が行われるようになった。


(2) 電信電話料金法
昭和23年,電信電話料金法(昭和23年7月6日法律第105号)により,料金が定められ,電話加入者に装置料(当初は1500円,その後,昭和26年の同法一部改正(昭和26年3月29日法律第52号)により4000円に値上げされた。)及び電話線設備料等の支払が義務付けられた。


(3) 電話設備費負担臨時措置法による負担金の徴収
昭和26年6月9日,電話設備費負担臨時措置法(昭和26年法律第225号)が制定され,電信電話料金法で定められていた装置料(当時4000円)とは別に,負担金3万円の支払が義務付けられた。


(4) 電電公社の設立と電信電話債券(電電債)昭和27年8月1日,日本電信電話公社法(昭和27年法律第250号)により電電公社が設立され,電気通信省の公衆電気通信現業部門の業務を承継した。昭和28年1月,電話設備費負担臨時措置法の一部を改正する法律(昭和27年法律第349号)によって,新規加入者に対して,装置料,負担金とは別に,電信電話債券(以下「電電債」という。)6万円の引受けが義務付
けられた。


(5) 公衆電気通信法
昭和28年7月31日,公衆電気通信法(昭和28年法律第97号)が公布され,電話の新規加入時に支払う金員については,第5章(料金)68条(料金の決定)別表第4によるものと定められ,額の改正は国会の承認によることとなった。装置料については,電信電話料金法下と同様,新規加入時に4000円を支払うこととされた。


(6) 負担金制度の廃止,設備料
電信電話設備の拡充のための暫定措置に関する法律(昭和35年法律第64号)附則4条により,電話設備費負担臨時措置法1条に基づく負担金の徴収は昭和35年3月まででうち切られた。他方,公衆電気通信法の一部が改正され,装置料が設備料と名称変更され,金額が4000円から1万円に変更された。なお,電電債引受義務に関する規定は,電信電話設備の拡充のための暫定
措置に関する法律(昭和35年法律第64号)に移行して規定され,電電債制度は昭和58年3月に同法が廃止されるまで継続した。


(7) 昭和43年法律第46号により,設備料が3万円に変更された。


(8) 昭和46年法律第66号により,設備料が5万円に変更された。


(9) 昭和51年法律第86号により,設備料が8万円に変更された。


(10) 昭和53年3月,電話積滞が解消した。


(11) 民営化,工事負担金
日本電信電話株式会社法(昭和59年法律第85号)に基づき,昭和60年4月1日,被告NTT株式会社が設立され,電電公社の加入電話契約に係る権利義務を承継した。これに伴い,公衆電気通信法は廃止され,電気通信事業法(昭和59年法律第86号)が制定された。同法31条(契約約款の認可等)により,電気通信サービス料金や提供条件の設定・変更は,国会の統制から郵政大臣の認可事項となり,電話約款で定められることとなった。また,同法94条(審議会への諮問)により電話約款の認可に際し郵政大臣は審議会の決定を尊重する義務を負うこととなった。設備料は,電気通信事業法の施行と同時に,電話約款において工事負担金と名称を変えて規定され,金額も8万円から7万2000円に変更された。


(12) 施設設置負担金
平成元年4月,電話約款上,工事負担金は施設設置負担金に名称が変更されたが,金額は従前どおり7万2000円のままとされた。


(13) INSネット64・ライト導入
被告NTT株式会社は,INSネット64・ライト(施設設置負担金の支払は不要であるが,月々の基本料に640円が加算される料金プラン)を導入することとし,平成9年6月27日付けで,郵政大臣から,かかるISDN約款の認可を受け,同年7月7日よりサービス提供を開始した。


(14) NTT再編
平成11年7月1日,被告NTT株式会社は,日本電信電話株式会社法の一部を改正する法律(平成9年法律第98号)に基づき持株会社となり,被告NTT株式会社から被告NTT東西が分社した。この際,被告NTT株式会社の加入電話契約に係る権利義務は被告NTT東西がそれぞれ承継した。


(15) ドライカッパ開放
被告NTT東西は,電気通信事業法の改正(平成9年法律第97号)により第一種電気通信事業者とほかの電気通信事業者との間における接続に関する規定が整備されたことを受けて,被告NTT東西の電気信号が通じていない状態の契約者回線設備(「ドライカッパ」と呼ばれる。)を他事業者に貸し出すこととし(ドライカッパ開放。なお,提供される契約者回線部分の通信サービスを直収電話という。),平成12年,郵政大臣から同旨の接続約款の認可を受けた。


(16) プライスキャップ制度導入
電気通信事業法の改正(平成10年法律第58号)により,平成12年10月以降,特定電気通信役務に関する料金について,プライスキャップ制度(上限価格方式)が導入された。これにより,第一種電気通信事業者が特定電気通信役務に関する料金を変更しようとする際には,変更しようとする料金の料金指数が,総務大臣が定めた基準料金指数(特定電気通信役務の種別ごとに,能率的な経営の下における適正な原価及び物価その他の経済事情を考慮して,通常実現することができると認められる水準の料金指数として定めたもの)を超える場合にのみ,総務大臣の認可を要することとされた。


(17) 加入電話ライトプラン導入
被告NTT東西は,加入電話ライトプラン(施設設置負担金の支払は不要であるが,月々の基本料に640円が加算される料金プラン)を導入することとし,平成14年2月1日付けで,総務大臣から,かかる電話約款の認可を受け,同月12日よりサービス提供を開始した。


(18) 施設設置負担金の半額化等
平成17年3月1日,被告NTT東西は,総務大臣の認可を受けて電話約款を変更し,加入電話(各ライトプランを除く。)に係る施設設置負担金を7万2000円から3万6000円に値下げし,ライトプランに係る基本料加算額を月額640円から250円に値下げした。


第4 争点及び当事者の主張
1 電話加入者の有する権利・利益の性質・内容


(原告らの主張)


(1) 電話加入権の意義等
電話加入権とは,「電話加入権料支払の対価として得た,電話加入者が電話取扱局に対して有する通話サービスの提供及びこれに伴うサービスの請求権であって,譲渡可能な金銭的価値を有する財産権」である。そして,以下の事実に照らせば,ここに言う「電話加入権料」とは,一般に「電話設備負担金」(固定電話加入者が明治30年以降負担してきた電話網等整備のための負担金を総称するものであって,加入登記料,設備費,装置料,設備料,工事負担金,施設設置負担金等を含む。)を指すものと認識されているから,「電話加入権」は電話加入者が被告NTTに対し負担金の回収を求め得る金銭債権ないし返還請求権と解釈すべきである。
したがって,電話設備負担金の支払を要しないライトプラン加入契約に,電話加入権は存在しない。電話加入者は,電話加入権を財産として,金融商品の側面にも着目して購入しているというべきであり,電話加入権が市場で売れなくなり,被告NTTからの返金もされないとなると,予想外の損害が生じることになる。


(2) 法律上・会計上財産権と扱われていること


ア 法令の具体例
電話加入権は憲法29条3項にいう財産権に該当する。このことは,公衆電気通信法38条,電気通信事業法附則9条,電気通信事業法施行規則67条,所得税法5条3号,法人税法2条22号,相続税基本通達11の2−1,国税徴収法73条,滞納処分と強制執行等との手続の調整に関する法律20条の11,電話加入権質に関する臨時特例法1条,貸金業の規制等に関する法律施行規則13条1項1号ワ,出資の受入,預り金及び金利等の取締りに関する法律附則15項,商品取引所法施行規則38条1項10号,卸売市場法施行規則8条1項1号,独立行政法人日本高速道路保有・債務返済機構又は鉄道事業者等が交付する一般旅客定期航路事業廃止等交付金に関する省令1条などの各種法令等からも明らかである。


イ 企業会計上の取扱い
また,企業会計上も新規加入時に支払った電話設備負担金の額が,電話加入権として,非減価償却の無形固定資産として資産計上されてきた。東京商工リサーチの記事によると,東京証券取引所1部,2部上場の平成16年3月期決算企業の内,単独決算の貸借対照表において,電話加入権の計上が確認できた832社では,電話加入権計上金額の総額が442億0560万円に上るという。また,国,地方公共団体の財産たる電話加入権の財産的価値も多大なものがある。


ウ 電話加入権質立法
このように電話加入権は譲渡可能な権利であるため,戦前より金融の手段として譲渡担保の目的とされてきたが,その弊害もあったことから,昭和33年,電話加入権質に関する臨時特例法(昭和33年法律第138号)が成立し,これによって,電話加入権は法的にも財産的価値のある債権として認知された。この時点において,電話加入権は金銭債権ないし返還請求権としての交換(譲渡)価値が認められたというべきである(慣習法上の金銭債権たる電話加入権の認知・昇華)。


(3) 電話加入権の金銭債権ないし返還請求権性


ア 資金調達と投下資本回収についての説明
電話加入権は譲渡可能な権利であり,被告NTTはこれを都合のよい資金調達手段として用いてきた。すなわち,被告NTTは,パンフレットなどで電話加入権につき資産価値のある「財産になる」から施設設置負担金を支払っても電話を付ける価値がある,電話がいらなくなれば売却もできるなどと説明して新規加入者を勧誘してきた。電話加入者の側はこのような被告NTTの説明を信用し,投下資本を回収できるからこそ納得して電話設備負担金を支払ってきたという実態がある。


イ 電電債との同一性
電話加入権料(電話設備負担金)は電電債と実質的に同一である。どちらも電信電話網拡充のため,国家予算の十分な投入を期待できない電電公社の資金調達方法として設けられたものであり,両者の受入れ後の使途も同一であって,当初は電話設備費臨時措置法という同一の根拠法によって徴収されてきた。そして,有線電気通信法及び公衆電気通信法施行法(昭和28年7月31日法律第98号)32条では,加入電話の増設を申し込んだ者等から電話設備負担金を徴収した場合には,後で電電債を交付しなければならない旨定められているところ,これは,電電債と電話加入権料の性質が実質的に同一であることを前提に,電話設備負担金の支払を受けた電電公社に対し,実質的に返還義務を定めた規定である。したがって,現時点において上記のような条文は存在しないものの,電話加入権(電話設備負担金)については,その義務者たる被告NTTにおいて権利者に対し返還義務を負うものと解釈されるべきである。


ウ 連合国に対する電話加入権料の返還
日本は,第二次世界大戦における敗戦後,昭和21年勅令第294号,連合国財産の返還等に伴う損失の処理等に関する法律(昭和34年5月15日法律第165号)に基づき,戦勝国である連合国から戦時中に没収した電話加入権を返還し,金銭補償を行った。とすれば,現在においても電話加入権につき金銭補償がされてしかるべきである。


エ 電話加入権質に関する臨時特例法12条
電話加入権質に関する臨時特例法12条は,「会社は,質権が設定されている電話加入権に係る契約の解除をした場合において,当該電話加入権を有していた者に支払うべき金銭(返還金)があるときは,その返還金を供託しなければならない。」と定めている。これは,電話加入権料の返還があり得ることを認めているものである。


(被告NTTの主張)


(1) 電話加入権の意義等
電話加入権とは,加入電話契約者が加入電話契約に基づいて加入電話の提供を受ける権利である。原告らの言うように「電話加入権料の支払の対価として得た」ことや「譲渡可能な金銭的価値を有する財産権である」ことは,電話加入権の要件ではない。電話加入権は,電話という通信サービスの提供を受ける非金銭債権であって,金銭の返還は何ら約されていない。電話加入権の市場価値(売買価格)は,取引市場の需給関係によって変動しているのであって,被告NTTは取引市場に関与していない。施設設置負担金は,加入電話サービスの提供に必要な契約者回線設備の建設費用の一部を賄うための料金であり,契約者回線設備の建設に必要な資金調達手段として寄与し,加入電話の早期普及に貢献してきたものである。社会実態としては,この施設設置負担金の支払を背景に電話加入権の取引市場が形成されてきたが,被告NTTが電話加入権の市場価格や財産的価値を保証しているものではない。施設設置負担金の支払を要しないライトプランなどについても,電話加入者が加入電話契約に基づいて加入電話の提供を受ける権利,すなわち電話加入権が生じるのであり(電話約款21条5項参照),施設設置負担金の支払は電話加入権の要件ではない。


(2) 法律上・会計上財産権と扱われていることについて
ア法令の具体例について
原告らの挙げる各種法律等の規定は,従来,電話加入権に譲渡性が認められ,市場で一定の相場が形成されてきたことから,交換価値を有するという社会実態を踏まえて定められているものである。これらの規定によって電話加入権の交換価値が当然に付与されているものとは言えないし,また,被告NTTが市場価格を保証しているものでもないから,被告NTTに対して償還請求したり損失補填請求したりできるという意味での財産権とは言えない。
イ企業会計上の取扱いについて
企業会計において,電話加入権を非減価償却資産とする考え方は,社会実態としてそのような取引市場が形成されていることを踏まえて定められたものと解され,非減価償却資産とされていることから価値が保証されなければならないというものではない。
ウ電話加入権質立法について
電話加入権は,現実に担保価値があることから電話加入権質に関する臨時特別法が制定されたものであり,そのことから,電話加入権の価値が保証されなければならないというものではない。


(3) 電話加入権の金銭債権ないし返還請求権性について


ア 資金調達と投下資本回収についての説明について電話加入権は金銭の支払を要求できる権利や返還を請求できる権利ではない。
電話加入権の取引は,自然発生的に一般の市場において行われていたものであって,被告NTTが投下資本回収手段を用意したものではなく,被告NTTが,電話加入権につき,資産価値のある財産になるとか,電話がいらなくなれば売却もできる旨をパンフレットに記載したり,説明して勧誘した事実もない。原告らが指摘するパンフレット(平成6年3月頃に,再編前の被告NTT株式会社の富山県高岡支店において配布されたもの)に「いつまでも大切な財産になる」という文言が記載されていたことは認めるが,この文言は,利用権としていつまでも大切な財産になるという趣旨を述べたものであり,このことは上記文言の下に「電話の権利は,引っ越しをしても,時代が過ぎても,ずっと使えるから」と記載されていることからも明らかである(乙A17)。


イ 電電債との同一性について
電電債は,負担金と同様に戦後における電話復旧や増設を促進する目的から電話設備費負担臨時措置法に設けられたものではあるが,負担金と異なって利子を付けて償還する債権であり,また,設備拡張のため引き続き資金調達の必要があったことから,電信電話設備の拡充のための暫定措置に関する法律を制定し,昭和35年4月以降も電話加入者による債券引受の形で融資を求めることとしたものであり,性格が異なるものである。また,原告らは有線電気通信法及び公衆電気通信法施行法32条を挙げて,この規定が実質的に電話設備負担金の返還義務を定めた規定であると主張するが,この規定は,構内交換電話及び内線電話機(契約者が事業所内で複数の内線につなぐことができるビジネスホンでNTTの交換局内に構内交換用装置が置かれているもの)に関するものであり,本件で問題としている固定電話の施設設置負担金ではない。


ウ 連合国に対する電話加入権料の返還について
原告らの主張する連合国財産の返還等に伴う損失の処理等に関する法律は,戦時中に敵産管理下に置かれた連合国財産の返還に伴い,連合国側への返還を命じられる等により,自己の財産を没収されて損失が生じた日本国民である権利者に対して補償を行うことを定めたものである。本件では電話加入者から電話加入権が没収されたわけでもないし,戦時中の状況とは,背景事実も法律関係も全く異なる。


エ 電話加入権質に関する臨時特例法12条について
電話加入権質に関する臨時特例法12条は,電話加入権に係る契約の解除の場合に,電話加入者に支払うべき金銭があるときは供託しなければならない旨を一般的に述べているだけで,電話加入権料の返還を前提にした規定ではない。


(被告国の主張)


(1) 電話加入権の意義等
電話加入権とは,被告NTTと締結した契約に基づき,電話加入者が加入電話契約(公衆電気通信法上は「加入電話加入契約」)に基づいて加入電話により公衆電気通信役務の提供を受ける権利をいう(公衆電気通信法31条,電気通信事業法附則9条2項)。
被告NTTと加入電話契約を締結することにより,電話加入権が発生することとなるが,同時に電話加入権に従って提供を受ける役務の対価として,基本料や通話料といった料金を支払う義務を負う。原告らが主張する電話加入権料に含まれる施設設置負担金は,加入者回線設備の新規架設工事費用の一部を賄うための料金であり,基本料や通信料と同様に上記料金として支払うものの一部にすぎない。また,電話加入権は,施設設置負担金の支払を要しないライトプランなどについても存在している。したがって,原告らが電話加入権について「電話加入権料支払の対価として得た」とする主張は失当である。なお,電話加入権が債権であり,その意味において財産権であること,電話加入権が一般的に譲渡可能であること及び実態として市場において取り引きされていることから金銭的価値を有することは否定しないが,この金銭的価値の大小は,市場における需給関係で決定されるものであり,被告国がその価格を保証しているものではない。


(2) 法律上・会計上財産権と扱われていること
電話加入権が,実態として金銭的価値を有する側面があることは認めるが,その金銭的価値は市場の需給関係によって決まるものであり,原告ら主張の法律等がその金銭的価値を保証しているものではない。


(3) 電話加入権の金銭債権ないし返還請求権性


ア 資金調達と投下資本回収についての説明
電話加入権の取引は,一般の市場において実態として行われていたものであって,被告国が電話加入権の取引市場に関与したものではない。


イ 電電債との同一性
電電債と施設設備負担金は同一のものではないから,原告らの主張は失当である。


ウ 連合国に対する電話加入権料の返還
原告ら主張の事例は,第二次世界大戦終結後の戦後処理という特殊な事情下でのものであって,本件では電話加入権自体が没収されたものでもないから,上記事例を根拠に施設設置負担金を返還すべきであるとする原告らの主張は失当である。


エ 電話加入権質に関する臨時特例法12条
同条にいう「支払うべき金銭」とは,施設設置負担金の返還を前提とするものではなく,被告NTTが質権の設定されている契約を解除した場合の返還金(サービスが設備の故障等により利用できなかった場合に生じる基本料金を返還する場合が該当する。)について規定しているものであり,施設設置負担金の返還義務の根拠とはならない。


2 被告NTTへの請求


(1) 債務不履行責任,不法行為責任又は不当利得返還責任(主位的請求)


ア 適正料金設定義務違反

(原告らの主張)
被告NTTは,加入電話契約をほぼ独占する者として,電気通信事業法等の法律の目的及びその趣旨に則り,適正な料金システムを構築する法的義務があるというべきである。それゆえ,被告NTTの電話設備負担金の設定・料金は適正なものでなければならず,それが不適正になった時点で直ちに是正する必要があるというべきである。しかしながら,被告NTTは,@電話積滞解消時点,A電電債廃止時点,BINSネット64・ライト認可時点,Cドライカッパ開放時点,D加入電話ライトプラン認可時点,E施設設置負担金を半額にする約款の変更をした時点の各時点以後,電話設備負担金の徴収が不適正・不合理になったことを知りながら,徴収することを止めず,また国に制度改定の認可を求めることもしなかったし,また,徴収しないことの届出もしなかったものであるから,被告NTTは,電話加入者である原告らに対し債務不履行責任又は不法行為責任を負うというべきである。


(被告NTTの主張)

(ア) 料金額の設定方法については,電気通信事業法19条2項が規定するところ,被告NTTの料金額設定方法は,料金の額の算出方法が適正かつ明確に定められていること(19条2項1号),電気通信事業者及びその利用者の責任に関する事項並びに電気通信設備の設置の工事その他の工事に関する費用の負担の方法が適正かつ明確に定められていること(19条2項2号),特定の者に対し不当な差別的取扱いをするものでないこと(19条2項4号),社会的経済的事情に照らして著しく不適当であるため,利用者の利益を阻害するものでないこと(19条2項6号)の各要件を満たしており,適正である。施設設置負担金値下げ時における公平については,総務省情報通信審議会答申において,「合理的な理由をもって施設設置負担金の見直しを行った結果,既存加入者と新規加入者との間で費用負担に差異が生じることは,電気通信事業法に規定する利用の公平に反する,あるいは,不当な差別的取扱いに当たるとは言えない」とされているところ,@一時金の形で早期に投資資金を回収する意味が低下してきていること,A新
規契約者にとって施設設置負担金は大きな負担となっていること,B競争事業者が施設設置負担金のような初期負担を設けない電話サービスを開始したこと,といった市場環境の変化を踏まえて実施したものであり,合理的な理由に基づくものであって,適正である。また,施設設置負担金の額は,総括原価方式ないしプライスキャップ方式に従って適正に定められており,「著しく不適当」や「利益を阻害」するものではない。


(イ) 原告らは施設設置負担金徴収が不合理であった旨主張するが,理由がない。
@ 電話積滞解消時について
電話の積滞が解消しても,固定電話の新規需要が相当数存在し,それに対応するために契約者回線設備の建設投資を行っていたため,電話サービスの提供に必要な建設費用を賄うための施設設置負担金の必要性がなくなったわけではない。契約者回線設備の投資額は,平成14年度末で1回線当たり約16万円であり(乙A5,6),施設設置負担金の額は当該投資額の一部にすぎない。
A 電電債廃止時について
電電債は,交換・中継伝送路設備(交換機・伝送装置・中継ケーブル等から構成される)を含む電気通信設備の建設に必要な資金の調達を目的とした,利子を付けて償還する債券である。他方,施設設置負担金(当時の設備料)は,契約者回線設備の建設費用の一部を賄うための料金であり,電話積滞解消後も,新規申込みに対応するためには契約者回線設備の建設に費用を要することからすれば,前者が廃止されたからといって後者も廃止されるべきということはできない。
B INSネット64・ライト認可時について
施設設置負担金は,基本料と共に契約者回線設備の設置費用をまかなうものであるところ,設置に要する費用は,平成14年度末で1回線当たり約16万円であり,この費用が不要となったわけではない。ライトプランは,この費用の負担方法として,施設設置負担金と基本料の配分割合を変更した料金プランであり,ライトプランの提供が開始されたことが,施設設置負担金の徴収が不要になったことを意味するものではない。
C ドライカッパ開放時点について
原告らは,ドライカッパの開放により他事業者が加入当初の資金負担が不要な料金体系の商品を販売したのに対し,被告NTTが施設設置負担金を徴収することが不公平であると主張するもののようである。しかしながら,そもそも,料金体系は事業者によって異なりうるものであり,当初負担金の有無のみを比較することは無意味である。D 加入電話ライトプラン認可時点について加入電話ライトプランは,INSネット64・ライトと同様,固定電話需要の減少に伴って,新規契約時の初期負担の軽減による需要喚起を図る必要があったことなどから,施設設置負担金の支払を不要とし,月々の基本料に一定額を加算する選択制の料金プランとして提供を開始したものである。この選択制の料金プランは,施設設置負担金相当額を基本料加算額で賄うことにより利用者間の公平性を図っており,総務省の契約約款認可・料金届出を経て提供している適正なもの費用の一部を賄うための料金であり,電話積滞解消後も,新規申込みに対応するためには契約者回線設備の建設に費用を要することからすれば,前者が廃止されたからといって後者も廃止されるべきということはできない。
B INSネット64・ライト認可時について
施設設置負担金は,基本料と共に契約者回線設備の設置費用をまかなうものであるところ,設置に要する費用は,平成14年度末で1回線当たり約16万円であり,この費用が不要となったわけではない。ライトプランは,この費用の負担方法として,施設設置負担金と基本料の配分割合を変更した料金プランであり,ライトプランの提供が開始されたことが,施設設置負担金の徴収が不要になったことを意味するものではない。
C ドライカッパ開放時点について
原告らは,ドライカッパの開放により他事業者が加入当初の資金負担が不要な料金体系の商品を販売したのに対し,被告NTTが施設設置負担金を徴収することが不公平であると主張するもののようである。しかしながら,そもそも,料金体系は事業者によって異なりうるものであり,当初負担金の有無のみを比較することは無意味である。
D 加入電話ライトプラン認可時点について
加入電話ライトプランは,INSネット64・ライトと同様,固定電話需要の減少に伴って,新規契約時の初期負担の軽減による需要喚起を図る必要があったことなどから,施設設置負担金の支払を不要とし,月々の基本料に一定額を加算する選択制の料金プランとして提供を開始したものである。この選択制の料金プランは,施設設置負担金相当額を基本料加算額で賄うことにより利用者間の公平性を図っており,総務省の契約約款認可・料金届出を経て提供している適正なものである。ライトプランが提供開始されたことが,施設設置負担金を支払うプランにおいて,施設設置負担金の徴収が不要になったことを意味するものではないことは,INSネット64・ライトと同様である。
E 施設設置負担金を半額にする約款変更をした時点について
被告NTT東西の施設設置負担金の値下げは,@近年,固定電話の契約者数が減少傾向にあり,契約者回線設備の新規投資額も減少し,投資資金を施設設置負担金の形で早期に回収する意義が低下する一方,A新規加入者の大半が初期負担の少ないライトプラン(施設設置負担金の支払を要しないタイプ)を選択する状況で新規加入者にとって施設設置負担金が大きな負担となっていること,B競争事業者が加入時に施設設置負担金のような初期負担を徴収しない電話サービスを提供するといった市場環境の変化が見られる中で,総務省情報通信審議会において施設設置負担金の廃止も選択肢とした見直しを容認する答申(乙A8。以下「本件答申」という。)が出されたことを踏まえたものである。契約者回線設備の設置費用は不要となったものではなく,基本料の値上げは行わなかったので,この費用の回収には従前より長期を要することとなるが,被告NTT東西は,本件答申などを踏まえて,料金
戦略として,当時の電話加入権取引市場の売買価格(当時は1万円前後であった)も考慮して半額(加入電話については3万6000円)への値下げに踏み切ったものであり,値下げ後も施設設置負担金を徴収し続けていることに何ら不当な点はない。


イ電話加入権料返還規定整備義務違反

(原告らの主張)
被告NTTは,電話加入権の交換価値を動機付けとして,電話加入者に電話設備負担金の支払を強制し,電話網の設備費用を調達してきた。そして,電話設備負担金の支払は,実質的には返還義務のある電電債の購入と同様であることから,公平の原理より電話設備負担金の返還規定を設けるべきである。実際,連合国財産の返還等に伴う損失の処理等に関する法律においては,電話加入権料の返還規定があった。また,電話設備費負担臨時措置法にも,一定の場合に返還規定があったが,同法は昭和60年に廃止された。電話約款には電話設備負担金の返還規定はないのであり,被告NTTには,電話加入権料の返還規定整備義務を怠った債務不履行がある。

(被告NTTの主張)
(ア) 被告NTTが,電話加入権の交換価値を動機付けとして電話加入者に施設設置負担金の支払を強制した事実はない。電話加入権の売買市場は自然発生的に生じたものであり,電話加入者は基本的には電話サービスの提供を受けることを目的に加入しているものである。仮に電話加入権市場での交換を目的に加入した者がいたとしても,被告NTTがそれを動機付けした事実はなく,むしろ,かつて電電公社は投機的な電話加入権取得による弊害を抑制すべく対応してきたものである。
(イ) なお,原告らは,施設設置負担金の支払が実質的には電電債の購入と同様であることのほか,連合国財産の返還時における補償の例や電話設備費負担臨時措置法における負担金につき返還規定があったことなどを挙げて,施設設置負担金についても返還規定を置くべき義務がある旨主張するが,これらがいずれも異なる制度であることは1(被告NTTの主張)(3)イ,ウで述べたとおりである。


ウ電話加入権の価値維持ないし填補義務違反

(原告らの主張)
電話設備負担金は,一時期においては一定の条件下で電話加入者に返還されたが,それ以外の時期においては電話設備負担金の返還はされていない。他方,被告NTTは,電話加入権の譲渡により実質的に投下資本を回収する道を長年にわたって認め,電話加入者もそのことゆえに,抵抗なく電話設備負担金の支払をしてきた。また,公衆電気通信法38条,電気通信事業法附則9条,電気通信事業法施行規則67条,所得税法5条3号,法人税法2条22号,相続税基本通達11の2−1,国税徴収法73条,滞納処分と強制執行等との手続の調整に関する法律20条の11,電話加入権質に関する臨時特例法1条など,電話加入権の財産性を前提とした各種法令,会計上の定めが存在している。これらを前提に,電話加入者は,自己が支払った電話設備負担金の返還を受けられないとしても,電話加入権譲渡により投下資本を実質的に回収する道が残っているものと期待し,被告NTTとしても,かかる期待を前提として,電話加入の勧誘を行ったものである。かかる期待は,電話加入及び電話設備負担金支払の誘因となったものであるから,被告NTTにおいては,電話加入権の価値を実質的に維持するか,若しくは市場価値が維持されない場合には電話加入者に対し実質的価値を補償する信義則上の義務があるというべきである。にもかかわらず,被告NTTは,@電話積滞解消時点においても何ら利益還元方策をとらず,その後もA電電債を廃止し,B携帯電話の普及,CINSネット64・ライトの導入,Dドライカッパの開放,E加入電話ライトプランの導入,F施設設置負担金を半額にする約款変更などにより,電話加入権の市場価値が下がるきっかけを自ら創り出して電話加入権相場をコントロールしながら,電話設備負担金制度を見直さず,適正な形で電
話加入者に利益還元をしなかったものであるから,上記信義則上の義務に違反した債務不履行責任が存在する。

(被告NTTの主張)
現在の施設設置負担金や,その基となった料金である装置料・設備料・工事負担金は,過去に返還された事実はない。また,被告NTTは,電話約款に基づき譲渡を認めているが,実質的な投下資本回収の道を「保証」しているものではないし,それを前提に加入を勧誘した事実もない。したがって,被告NTTに信義則上市場価値維持義務等が生じることはありえないものである。なお,被告NTTが電話加入権の市場交換価値をコントロールしている事実はない。すなわち,電話加入権の取引市場は,被告NTTの電話加入権が,譲渡や契約者回線の移転を可能とされ,また,譲渡を受けた場合に施設設置負担金の支払が不要となることから,これを背景に派生したものであり,施設設置負担金の額が取引市場に全く影響しないとはいえないが,取引市場の売買価格は需要と供給の市場原理に基づいて形成されるものであって,日々変動している。近年は,固定電話の新規需要の減少や携帯電話の普及による固定電話施設数の純減に伴い年々低下してきているが,被告NTTがその価格の決定に関与しているものではない。そして,原告らが掲げる被告NTTの施策(ライトプランの導入等)は,いずれも前記のとおり合理的理由に基づくものであり,電話加入権の市場価格のコントロールを意図したものではない。むしろ,電気通信市場におけるニーズの多様化・技術革新等の環境変化や法律・規制制度の改正に応じて見直していかざるを得なかったものである。企業が,経済環境等の変化に対応し,価格戦略として商品価格の値下げを行うことは正当な経済活動であって,第三者に損害を加えることを意図して何らの合理的理由もなく値下げするような特別の事情がある場合でない限り,違法性を有することはありえない。


エ損害填補措置義務違反

(原告らの主張)
(ア) 商法654条,646条は,責任開始前又は保険期間中に,危険が生じないことになったか消滅したときには,保険契約者は保険料の全部又は一部の返還を求め,あるいは将来に向かって保険料の減額を請求できるとしているところ,本件においても同様の法理を考えることができる。すなわち,被告NTTを保険者,電話加入者を保険契約者とみて,保険者側の事情により危険(電話設備負担金徴収の必要性と合理性があること及び電話加入権の財産的価値が保証されかつ譲渡によって投下資本の道があること)が消滅したときには,保険者(被告NTT)は保険料(電話設備負担金)の全部又は一部を保険契約者(原告ら電話加入者)
に返還しなければならないというべきである。
(イ) また,上記解釈の法的根拠は,民法上の不当利得の規定(民法703条,704条)の根底にある公平の原理及び利益衡量に求めうる。形式的にみれば,被告NTTは電話設備負担金の返還を約束してはいない。しかし,電話設備負担金が電電債と同様の使途に充てられ,その投下資本回収は譲渡によってなされていたところ,それが,被告NTTによる電話約款変更等の一方的行為によって譲渡の道が閉ざされ,電話加入者には損失が生じ,他方で被告NTTには利益が生じることになったことからすれば,公平原理上,被告NTTは損害を被った電話加入者に対して,その損害を填補すべき信義則上の義務があるというべきである。
(ウ) しかるに,被告NTTは損害填補措置をとらずに電話加入権を一方的に切り下げたのであるから,債務不履行がある。

(被告NTTの主張)
商法654条,646条は,一定の危険の存在を前提に保険料を設定した場合において,当該危険が生じないこととなった場合は,将来に向かって,保険料を減額するという規定である。しかし,施設設置負担金は,現実に発生した費用の一部を支払ってもらうものであって,将来の不確実な事故の保障のために予め支払う保険料とは全く性質が異なる。保険法理の言葉を借りるならば,既に保険事故が発生しているのであるから,保険料が返還されないことは当然であって,将来に向かった保険料の減額を定める商法654条,646条の法理の適用の余地はない。また,原告らは,施設設置負担金徴収の必要性と合理性が消滅したから返還すべきと主張するが,そもそも,当該必要性と合理性があることは上述のとおりであり,原告らの主張は理由がない。


オ説明義務違反


(原告らの主張)
被告NTTには,電話加入権の歴史的経過を踏まえて,何故電話設備負担金を徴収するのかを説明する義務がある。また,被告NTTは,電話加入契約者が,新規加入契約あるいは電話加入権譲受契約を締結する際には,施設設置負担金は基本料の一部であって返還されないこと,電話加入権の価値は市場によって決定されるものであり,NTTが関与するものでないこと,上記「基本料の一部」とは何年分で,途中解約したらどうなるのかということ,ライトプランが公平性を欠かないことについて,説明を行う義務があったというべきである。しかるに,被告NTTは,電話加入権の内容,性質,合理性及び問題性について参考となるべき具体的事情を個別の電話加入者に対して告知したことはなく,電話の新規加入を勧誘するパンフレット等において,電話加入権を資産価値のある「財産になる」から負担金を支払っても電話を付ける価値がある,電話がいらなくなれば売却もできると説明して,一般市民・企業に,負担金は電話加入権という権利であり,その価値は実質的には下がらないと信用させた。したがって,被告NTTには,信義則上の説明義務違反があり,少なくとも慰謝料請求が認められるべきである。


(被告NTTの主張)
原告らが説明義務の根拠として述べる歴史的経過等の意味が不明である。また,施設設置負担金は基本料の一部ではないのであるから,この点の説明義務が生じることはなく,仮に,原告らが,施設設置負担金が基本料とあわせて契約者回線設備に係る費用を賄うものであることを説明せよと主張していると善解しても,電話加入者としては,料金の算定方法と金額が明確に理解できれば,その使途が明らかにされなくても何ら不利益を被ることはなく,そのような説明義務はないというべきである。施設設置負担金が返還されない点については,被告NTTは,「預かり金」等としてではなく,当初に必要な「料金・費用」として請求しており,料金・費用は返還されないものであることは明らかであるから,説明義務はない(あるいは黙示に説明している。)というべきである。また,電話加入権の価値が市場価値によって決定されるものであり,被告NTTが干渉するものではないということは,説明しなくても当然理解されるものであり,電話加入権の価値を被告NTTが保証したり決定しているとの誤解を与えるようなことを行わない限り,説明義務が生じることはない。さらに,原告らは,負担金徴収の合理性やライトプランの公平性を説明すべきと主張するが,これらについて電話加入者が説明を受けなければ何らかの損害を被るとは認められず,説明義務はないというべきである。
なお,被告NTTが電話加入権につき,資産価値のある財産になるとか,電話がいらなくなれば売却もできるとパンフレットに記載し,説明して勧誘した事実がないことも,1(被告NTTの主張)(3)アのとおりである。

カ私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)違反


(原告らの主張)
被告NTTは長期にわたり電話事業を独占してきており,原告ら電話加入者には被告NTT以外の取引先選択の余地はなく,原告らは,電話加入時に電話設備負担金の支払を強制されていた。そして,@電話積滞解消時点,A電電債廃止時点,B民営化時,CINSネット64・ライト認可時点,Dドライカッパ開放時点,E加入電話ライトプラン認可時点,F施設設置負担金を半額にする約款の変更をした時点の各時点において,電話設備負担金の支払が不合理・不適当になっていたにも関わらず,被告NTTは,その独占力を背景に同負担金の徴収を続けている。これは,独占禁止法で禁止されている優越的地位の濫用に当たり,不法行為となる。


(被告NTTの主張)
施設設置負担金は,加入電話等のサービス提供に必要な契約者回線設備の建設費用の一部の負担料金であり,サービス提供に欠かせないものであって,その額は原価をベースとして適正に設定されている。したがって,不必要な施設設置負担金の支払を強制したと評価されるような事実はなく,原告らの主張は失当である。原告らが主張する@ないしFの各時点(Bを除く)における被告NTTの対応に何ら不当な点がないことは,ア(被告NTTの主張)(イ)のとおりである。そして,原告らが主張するB民営化時に電話設備負担金の還元をしなかった点ついては,被告NTT成立以前のことであるうえ,これは,民営化に際して,当時の郵政大臣の任命による設立委員会において,旧電電公社の全資産を現物出資して新会社を設立する際に,設備負担金累計額見合いを圧縮することなく資本準備金と整理されたことによるものであり,十分な国民的議論の結果に基づくものであって,独占禁止法違反の事実はない。また,新設された被告NTT株式会社の純資産に対応する株式は,全て国に付与され,国が被告NTT株式会社の株式売却益収入を国益にかなう使途に用いてきたと理解している。


キ不当利得


(原告らの主張)
被告NTTは特別法によって制定された特殊法人であり,国が全株式の3分の1をもっていること,電話設備負担金の設定・変更は,長期間,法令決定事項ないし総務省の認可事項であったことからすれば,被告NTTの料金設定行為は,国の行為に準ずるような高度に公的な機能を行使している場合ということができ,国家行為と同視して憲法を直接ないし間接に適用することができるというべきである。そうすると,カ(原告らの主張)の@ないしFの各時点で,被告NTTは,電話設備負担金の見直しをし,電話加入者に対しその財産的損害を補償すべきであったのに,それをしなかったことにより電話加入者の財産権を侵害したというべきであり,新規加入者から電話設備負担金を徴収する旨の電話約款は憲法29条1項ないし民法90条に違反して無効というべ
きである。ゆえに,被告NTTが徴収した電話設備負担金は不当利得であって,原告ら電話加入者に返還がなされるべきである。
(被告NTTの主張)
原告ら主張の@ないしFの時点で施設設置負担金を見直すべきとはいえないことは,ア(被告NTTの主張)(イ),カ(被告NTTの主張)のとおりである。なお,総務省による約款・料金の認可は,電気通信事業法の目的に基づいて各種規制に際して行われるものであり,被告NTTが特殊法人であることを理由に行われているものではない。原告らの主張によるならば,被告NTT以外でも認可を要する企業全ての行為が国家行為ということになり,不当である。

ク被告NTT株式会社の責任


(原告らの主張)
電電公社の加入電話契約に係る権利義務は再編前の被告NTT株式会社が承継し,さらに再編時に被告NTT東西が承継したが,その資産形成と分割の経緯,持ち株状況からして,被告NTT株式会社も被告NTT東西の義務違反等につき,被告NTT東西とともに連帯責任を負う。


(被告NTTの主張)
被告NTT株式会社再編時に被告NTT株式会社が有した加入電話契約に係る権利義務はすべて被告NTT東西が承継し,再編後の加入電話契約に係る権利義務は契約者と被告NTT東西との間で発生するものであるから,被告NTT株式会社が何らかの法的責任を負うことはありえない。


ケ損害ないし損失


(原告らの主張)
原告らは,別紙請求目録1ないし5記載の電話加入権を有している(ただし,原告aについては加入電話契約は既に解除された。)。
ところが,@現実に施設設置負担金が半額となったこと,Aいずれは電話加入権料を廃止するという方針が打ち出されていること,B既に電話加入権料不要のサービスが利用できる状態にあることなどからすれば,電話加入権の経済的価値は事実上ゼロである。また,被告NTTは,今回の引下げ前は電話加入権1本あたり7万2000円としていたのだから,電話加入権の取得時期や譲渡の有無を問わず,原告らの損害・損失は1本当たり7万2000円とみるべきであり,原告らはその一部である1本当たり3万6000円を請求する。原告らの個別の損害・損失額は,別紙請求目録1ないし5「損害金(円)」欄各記載のとおりである。(被告NTTの主張)争う。


(2) 債務不履行責任(予備的請求1)


ア契約者を公平に扱うべき義務違反


(原告らの主張)
電話約款による契約において電話サービスを提供する場合,電話サービス提供者は,信義則上,契約者の契約時期を問わずに実質的に公平に扱うべき義務がある。しかるに,被告NTTは,施設設置負担金と基本料とで契約者回線のコストを回収するとしながら,施設設置負担金を半額化した際,既存の施設設置負担金を支払った契約者,半額化された施設設置負担金を支払った契約者,ライトプランの契約者について,支払うべき基本料について合理的な区別を用意しなかった。これは,上記契約者を不公平に扱うものであり,上記信義則上の義務に違反し,債務不履行を構成する。


(被告NTTの主張)
被告NTTが「特定の者に対し不当な差別的取扱い」をしてはならない(電気通信事業法19条2項4号)ことは原告ら主張のとおりであるが,被告NTTはかかる扱いはしていない。契約時期の異なる契約者間では,契約条件が異なったとしても,そのことに合理的理由があれば実質的な公平は保たれているというべきである。そして,平成17年3月に実施された施設設置負担金の値下げは,@一時金の形で早期に投資資金を回収する意味が低下してきていること,A新規契約者にとって施設設置負担金が大きな負担となっていること,B競争事業者が施設設置負担金のような初期負担を設けない電話サービスを開始したことといった市場環境の変化を踏まえ,当時の電話加入権取引市場の売買価格に直接影響を与えない範囲で値下げすることとしたものであり,合理的な理由に基づくものであって,適正である。また,施設設置負担金値下げ後の料金体系(値下げ前の施設設置負担金を支払った契約者の基本料を減額しなかったこと)にも,(1)ア(被告NTTの主張)(イ)Eのとおり一定の合理性があり,実質的な公平を害し
ていない。


イ損害


(原告らの主張)
原告らは,被告NTTの債務不履行により,被告NTTが原告ら従前の電話加入権料を支払った者に対する上記差別的な扱いを止めるまで,損害が生じているというべきである。具体的には,施設設置負担金半額化に伴って改定されるべき基本料減額分,すなわち,電話加入権1本につき,ライトプラン契約者の改定前後の基本料上乗せ部分の差額に相当する額1か月当たり262.5円に,施設設置負担金が半額化された平成17年3月1日から平成19年12月末日までの2年10か月分を乗じた8925円の損害が生じたというべきである。この点に関する原告らの個別の損害額は,別紙予備的請求目録1「損害金(円)」欄に記載のとおりである。
(被告NTTの主張)
争う。被告NTTに値下げ前の施設設置負担金を支払った契約者の基本料を減額すべき義務はなく,原告らに損害は発生していない。


(3) 解除に基づく原状回復請求(予備的請求2)


(原告aの主張)
原告aは,電話加入権を有していたが,事情により加入電話契約を解除した。電話約款においては,契約者回線の工事完了後の契約解除を理由とする施設設置負担金の返還請求権に関しては必ずしも明確に規定されていない。しかしながら,@電話約款によれば,契約者回線の設置工事完了前に契約解除があれば,施設設置負担金は返還されることになっており,施設設置負担金が工事費ではなく,契約者回線の維持・充実を目的とすることからすると,返還請求の可否と設置工事完了とは直接の関係はないはずであること,A電話約款の料金表第2表1が,加入電話契約申込者がすでに締結している加入電話契約を解除すると同時に契約を締結する場合について,解除される加入電話契約を新たに締結するとみなした場合の施設設置負担金から控除することを定め,既払いの施設設置負担金を再評価した上で新規の施設設置負担金に充当することを認めていること,B約款には,「疑わしきは約款作成者
の不利に」という解釈原則が適用されるべきことからすると,契約解除の際には,原状回復の一環として,解除される電話サービス契約を新たに締結するとみなした場合の施設設置負担金相当額が契約者に返還されると解釈すべきである。そうすると,被告NTTが返還すべき金額は,1回線あたり,金3万6000円となる。したがって,原告aが返還を受けるべき額は,別紙予備的請求目録2「返還金(円)」欄記載のとおりである。


(被告NTTの主張)
電話約款74条は,本文で施設設置負担金の支払義務を規定し,但書において「ただし,契約者回線の設置工事の完了前にその工事に係る契約の解除があったときは,当社は,その施設設置負担金を返還します。」旨規定しているのであって,本文と但書との関係からして,設置工事完了後の施設設置負担金の返還義務が生じないことは明確にされている。「疑わしきは約款作成者の不利に」という準則は,多義的解釈が可能な曖昧な条項が存在する場合の議論であり,上記のとおり明確な規定が存在する本件では適用の余地がない。また,施設設置負担金は加入者回線設備の建設費用の一部を賄う料金であって,契約解除したからといって返還する性格のものではない。そもそも,電話約款に基づく契約は継続的契約関係であるから,ここでいう解除は将来に向かって契約関係を解消する解約告知であり,原状回復として施設設置負担金を返還するということはあり得ない。原告aの有していた電話回線については,料金滞納により,被告NTTが電話約款に基づき解除(解約告知)したものであり,遡及効のある解除ではないし,上記のとおり,同約款上,施設設置負担金が返還されないことは明らかである。


(4) 時効について


(被告NTTの主張)
原告らは,明治以来の,被告国や電電公社,被告NTTの行為を記述して責任があると主張するが,仮にいずれかの時点で何らかの責任が生じ,被告NTT成立以前の責任については被告NTTが承継しているとしても,債務不履行責任については5年,不法行為については3年,不当利得については10年で時効が成立するものであり,被告NTTはこれらの時効を援用する。また,不法行為については行為時から20年で除斥期間にかかるものである。したがって,本件訴訟提起から20年以上過去の事実にかかる原告らの主張は意味がない。


(原告らの主張)

被告NTTによる時効の主張は,電話加入権問題の歴史的経過及び被告NTTの情報隠匿の問題,並びに被告NTTが法律上の国策会社であるという観点からして,権利濫用で無効というべきである。また,施設設置負担金の半額化による電話加入権の財産価値毀損については平成17年3月のことであり,具体的に損害が発生したのは同時点ということができるから,時効は成立しない。


3 被告国への請求


(1) 債務不履行責任又は不法行為責任(国家賠償責任)(主位的請求)
ア総務省(郵政省を含む。)の責任


(ア) 適正料金設定監督義務違反


(原告らの主張)
郵政省・総務省は,公衆電気通信法(昭和28年8月1日施行),日本電信電話公社法(昭和27年法律第250号),電気通信事業法(昭和59年法律第86条),日本電信電話株式会社等に関する法律(平成9年法律第98号)の電話加入者保護という法の精神に反して,以下のaないしfのとおり,それぞれ電話加入者の利益保護を図るべきであったのに,それを怠った違法があり,これらは監督官庁たる郵政省・総務省の地位及び上記規制の精神から導かれる付随義務としての適正料金設定監督義務に違反し,債務不履行又は不法行為を構成するというべきである。
a 電話設備負担金の返還を規定する法案の策定又は約款を作成するよう指導しなかった違法過去の法制度において,電話加入権料そのものを電話加入者(譲受人も含む)に返還したことがあること,実質的には電電債と同様の権利であることからすれば,そもそも電話加入権料としての電話設備負担金を電話加入者に返還する旨の法案を策定することが郵政省・総務省に期待されるものというべきであるが,郵政省・総務省にはこれを怠った違法がある。
b 電話積滞解消時における電話設備負担金の徴収を止めるような法案等を国会に提出しなかった違法電話積滞が昭和53年に解消した後は,最寄りの電柱又は土管から電話線を引っ張るだけの工事にすぎず,また電話交換のための番号設定という単純作業のみで電話線引込み工事すら必要としなかった場合もかなり多いのであって,回線設備費用を徴収する合理的理由はないといわなければならない。電電公社の主務官庁である郵政省は,公衆電気通信法48条及び別表による電話設備負担金(設備料)の徴収を見直し,電話設備負担金の徴収を止めるような法案,あるいは電電債と同様に電話加入者に対し既払額を返還する等の法案を作成し国会に提出すべきであったのにこれを怠った違法がある。

c INSネット64・ライトの認可をしつつ電話設備負担金を維持した料金体系を取り消さなかった違法電話設備負担金については,昭和53年には既に徴収の合理性を失っており,平成9年のINSネット64・ライト導入申請時にはなおさら合理性がなかった。この際の審議会においても,電話加入権料(施設設置負担金)は諸外国にはない制度であり,電話網整備のための負担金徴収の合理性も疑わしいことから,施設設置負担金そのものを廃止すべきとの意見が出された。にもかかわらず,郵政省は,INSネット64・ライトにつき認可したものであり,違法である。
d ドライカッパ開放の法律改正及び約款の認可をしつつ電話設備負担金の認可の取消し又は廃止をしなかった違法ドライカッパの開放により,電話設備負担金の支払の有無を問わず,電話が利用できるようになったことで新規加入者と電話加入権を持っている者に不公平が生じたところ,かかる不公平は新規加入者に負担を求めるのではなく,既存の電話加入者に対し金銭等の補償をして還元することによって解消すべきであった。また,ドライカッパ開放により電話設備負担金不要で電話サービスが受けられるようになったため,電話加入権の需給バランスは決定的に崩壊し,電話加入権の業者買取価格はほぼゼロになり,既存の電話加入者の財産が全面的に毀損された。にもかかわらず,総務省はこれらの補償につき何ら対策を講じなかった違法がある。
e 加入電話ライトプラン導入約款の認可をしつつ電話設備負担金の徴
収約款の変更命令等をせず又は廃止をしなかった違法
加入電話ライトプランの制度導入についても,cと同様であり,総務省の認可行為は違法というほかはない。
f 電話設備負担金の徴収を続ける約款の変更命令や料金変更命令権限を行使せず,かつ何らの補償制度を設けることなく半額にする約款を認可した違法総務大臣は電気通信事業法19条2項により電気通信事業者が届け出た基礎的電気通信役務の契約約款,指定電気通信役務の契約約款が次の各号のいずれかに該当すると認めるときは,電気通信事業紛争処理委員会への諮問を経て(160条),契約約款変更命令を出すことができるとされているところ,電話加入権料を既存の電話加入者に対する補償なしに半額にする被告NTT東西の電話約款が作成され,総務省に事前届出された。かかる電話約款について,審議会においては施設設置負担金を全部廃止する旨の答申であったにもかかわらず,なぜ半額なのか根拠不明であり,「料金の額の算出方法が適正」(19条2項1号)とはいえないし,ドライカッパの開放により,電話加入権料不要の電話サービスが利用できるにもかかわらず,なぜ継続して電話設備負担金を支払わなければ電話が利用できないのか不明であり,「工事に関する費用の負担の方法が適正」(同2号)ともいえない。また,上記取扱いの不公平さは「特定のものに対し不当な差別的取扱をするもの」(同4号)に該当し,さらに,既存の電話加入者の利益を著しく害する者であって「社会的経済的事情に照らして著しく不適当であるため,利用者の利益を阻害する」(同6号)ものというべきである。にもかかわらず,総務省は,料金変更命令,業務改善命令,約款変更命令等の各種是正措置を適正に行使しなかったものであり,違法である。


(被告国の主張)
本件において,被告国と原告らとの間には何らの契約関係はなく,被告国が原告らに対して信義則上の義務を負う根拠も明らかでないから,原告の被告国に対する債務不履行の主張は失当である。また,原告らは,公衆電気通信法,電気通信事業法等を挙げ,その趣旨は究極のところ電話加入者の利益保護にある旨主張するが,これらの法律は,個別の電話加入者についてその電話加入権の取引価格を保証するなど,直接個別の電話加入者の経済的利益の保護を目的とするものではないことは明らかであり,したがって,被告国がこれらの法律に基づく監督権限を行使しなかったとしても,国家賠償責任を負うことはない。さらに,郵政省や総務省の公務員が,原告ら個別の国民に対する関係において,法案の策定あるいは法律案の議案を国会に提出すべき職務上の義務を負う法的根拠は存在しないし,国会法上,郵政省や総務省の公務員が法律案の議案を国会に提出する権限はない。原告らは,第一種電気通信事業者の電気通信役務に関する料金,他の電気通信事業者との接続約款,基礎的電気通信役務の契約約款等の認可ないし変更命令について違法があった旨主張するものと解されるが,電気通信事業法上,これら認可等の要件が,社会的実態として形成された取引市場における電話加入権の取引価格とは無関係に定められていることは明らかであり,郵政大臣・総務大臣において,上記価格を斟酌すべき職務上の義務を負う法的根拠は存在しない。


(イ) 期待権侵害


(原告らの主張)
原告ら電話加入者は,もともと,電話加入権が既払額相当額の価値があることを信じて電話加入契約を締結したものである。にもかかわらず,郵政省・総務省がその信頼を裏切り,電話加入者に対する補償なしに不利益な施策転換をしたことは,不法行為を構成する。


(被告国の主張)
電話加入権について,電話約款上,施設設置負担金相当額の価格で売買できる旨の規定はなく,施設設置負担金を返還する規定も存在しない。また,被告国は,被告NTT東西に対し,施設設置負担金相当額が返還されることを約して加入を促すよう行政指導をしたこともないし,電話加入権市場における取引価格を保証するような施策をとったこともない。したがって,郵政省・総務省がその信頼を裏切ったとの前提が存在しない。


(ウ) 減価償却立法案を作成しない違法


(原告らの主張)
電話加入者の利益保護義務からは,企業者たる電話加入者の利益保護の為に,現実的にゼロに等しくなった電話加入権について,損金控除を認めるような減価償却立法案を作成する義務があった。にもかかわらず,総務省は,いったん与党などに提出していた電話加入権減価償却立法案の税制改正要望を事実上撤回し,原告ら電話加入者が減価償却による利益を得る機会を奪ったのであるから違法であり,不法行為を構成する。


(被告国の主張)
国会法上,総務省の公務員が法律案を国会に提出する権限はなく,総務省の公務員が原告ら個別の国民に対する関係において,法案の作成を行うべき職務上の注意義務を負う法的根拠は存在しない。


(エ) 説明義務違反


(原告らの主張)
被告NTTは,原告ら電話加入者に対して電話加入権料の還元等を行わないことにつき具体的に説明すべきところ,被告NTTは同説明義務を果たしていない。総務省は,被告NTTに対し,上記説明を行うよう指導すべきであるが,これを怠っている。


(被告国の主張)
施設設置負担金は役務の対価として支払う料金の一部であり,一般的に支払った料金は返還されないものであることは明らかであるから,これを返還しないことについての説明義務はないというべきである。
イ財務省(大蔵省を含む。)の責任
(ア) 日本電信電話株式会社の株式の売払収入の活用による社会資本の整備の促進に関する特別措置法(以下「NTT資金法」という。)の成立を阻止等しなかった違法


(原告らの主張)
本来であれば,被告NTT株式会社の政府保有株売却益(以下「NTT資金」という。)は電話加入者に還元されるべきところ,大蔵省・財務省は,これを特定資金公共投資事業債として分配するなど適切に管理せず,還元の機会を不当に奪ったものである。大蔵省がNTT資金法の成立を阻止し,電話加入者に対する還元の方策を打ち出さなかった不作為は,違法と評価されるべきであり,債務不履行責任又は国家賠償責任がある。


(被告国の主張)
原告らがNTT資金は電話加入者に還元されるべきと主張する根拠は不明というほかない。なお,行政は法律を執行するものであり,行政庁である大蔵省・財務


第3 争点に対する判断
1 認定事実


前記前提事実,争いのない事実,証拠及び弁論の全趣旨によれば以下の事実が認められる(末尾に証拠を引用しない事実は,争いがないか,弁論の全趣旨により認められる。)。


(1) 事実経過


ア我が国における電話事業の開始


(ア) 我が国における電話事業は,明治23年に国営事業として開始され,郵便事業と併せて逓信省の所管とされた。開業当初は申し込めば無料で開通されたが,申込増加により申込繰越が発生し,電話を申し込んでもすぐには電話が設置されず,順番待ちの状態(電話積滞)が増加した。
(イ) 日清戦争を経て,電話の需要は激増し,電話積滞状態が続いたが,このような中,自然発生的に電話の売買が行われるようになった。明治30年12月,電話交換規則(明治30年逓信省令第31号)が定められ,電話加入者が自己の権利(「自己ノ加入」)を他人に譲渡する際には,当事者が連署した請求書を電話交換局に差し出すこととされた(14条)。また,電話加入者は,加入登記料を納めることとされた(20条)。明治42年には,電話加入者が至急開通料を負担することにより電話を付けられる制度(至急開通方式)ができ,大正14年には,電話加入者が設備費として実費(当時,設備費負担金東京1500円,工事費東京1550円)を負担することにより電話を付けられる制度(特別開通方式)ができた。昭和13年には,逓信省は,地域の電話官署と連係させる形式で電話取引業者を公認した。
(ウ) 昭和23年,電信電話料金法(昭和23年7月6日法律第105号)により,料金が定められ,電話加入者に装置料(当初は1500円,その後,昭和26年の同法一部改正(昭和26年3月29日法律第52号)により4000円に値上げされた。)及び電話線設備料等の支払が義務付けられた。


イ第二次世界大戦直後−連合国財産没収に係る補償敵産管理下に置かれた連合国の財産は,ポツダム宣言の受諾に伴って,連合国財産の返還等に関する件(昭和21年勅令第294号)等に基づいて返還が行われた。この際,連合国財産の返還等に伴う損失の処理等に関する法律(昭和34年法律第165号)に基づき,上記連合国側への財産の返還に伴って財産を没収された日本国民に対して,一定の金銭補償が行われた。


ウ電気通信省
昭和24年6月,逓信省は郵政省と電気通信省の二つの省に分離され,電気通信省が電信電話事業を担当することとなった。


エ装置料4000円,負担金3万円の徴収
昭和26年6月9日,戦後における電話復旧や増設促進のため,電話設備費負担臨時措置法(昭和26年法律第225号)が昭和31年3月31日までの時限立法として制定された(なお,昭和31年の改正(昭和31年法律第36号)により,上記期限は昭和36年3月31日まで5年間延長されることとなった)。同法1条は,電信電話料金法(昭和23年法律第105号)で定められ
ていた装置料4000円(なお,昭和28年8月1日より公衆電気通信法(昭和28年法律第97号)へ移行)とは別に,負担金3万円の支払を義務付けた。なお,電話設備費負担臨時措置法は,電話加入者が支払った負担金を,5年以内であれば使用期間に応じその加入者又はその承継人に返還することを定めていた(2条)。また,戦災電話(戦災により滅失している電話)の復旧時に電話加入者に負担金を支払うこととしていたが(3条),加入電話契約が失効した場合には,支払額を失効時の加入者に返還するこ
ととされていた(4条)。これらの規定は,昭和60年4月1日付けで廃止されるまで効力を持っていた(日本電信電話株式会社法及び電気通信事業法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(昭和59年法律第87号)1条)。

オ郵政省,電電公社昭和27年8月1日,電気通信省は廃止され,電気通信監督行政は郵政省が引き継いだ。他方,日本電信電話公社法(昭和27年法律第250号)により,同日,電電公社が設立され,電気通信省の公衆電気通信現業部門の業務を承継した。


カ電電債
昭和28年1月,電話設備費負担臨時措置法の一部を改正する法律(昭和27年法律第349号)によって,新規加入者に対して,装置料4000円,負担金3万円とは別に,電電債6万円の引受けが義務付けられた。その後,「公衆電気通信設備を急速に拡充するための資金を調達して,すみやかに国民の当該需要を充足し,もって公共の福祉の増進に寄与することを目的」として,電信電話設備の拡充のための暫定措置に関する法律(昭和35年法律第64号。昭和48年3月までの時限立法)が制定され(同法1条参照),電電債の引受義務に関する規定が移行して置かれた。なお,昭和47年には同法の一部改正法(昭和47年法律第43号)によって引受義務の10年延長が決定され,電電債制度は,電信電話設備の拡充のための暫定措置に関する法律を廃止する法律(昭和58年法律第7号)により,昭和58年3月に電信電話設備の拡充のための暫定措置に関する法律が廃止されるまで継続した。


キ公衆電気通信法
昭和28年7月31日,公衆電気通信法(昭和28年法律第97号)が公布された。同法は,「迅速且つ確実な公衆電気通信役務を合理的な料金で,あまねく,且つ,公平に提供することを図ることによって,公共の福祉を増進することを目的」(1条)として,それまであった電信電話料金法に代わって制定された。同法において,電話の新規加入時に支払う金員については,第5章(料
金)68条(料金の決定)別表第4によるものと定められ,額の改正は国会の承認によることとなった。また,電信電話料金法下と同様に,新規加入時には加入電話ごとに装置料4000円を支払うこととされた。


ク電話加入権質に関する臨時特例法
昭和33年,電話加入権質に関する臨時特例法(昭和33年法律第138号)が制定された。なお,同法12条1項は,「会社(注:電電公社のこと)は,質権が設定されている電話加入権に係る契約の解除をした場合において,当該電話加入権を有していた者に支払うべき金銭(以下「返還金」という。)があるときは,質権者から供託しなくてもよい旨の申出がある場合を除き,その返還金を供託しなければならない。」と規定している。


ケ負担金制度の廃止,設備料
昭和35年,電信電話設備の拡充のための暫定措置に関する法律(昭和35年法律第64号)附則4条により,負担金3万円の支払義務はなくなった。他方,公衆電気通信法の一部が改正され,装置料が設備料と名称変更され,金額が4000円から1万円に変更された。なお,カのとおり,電電債引受義務に関する規定が,電信電話設備の拡充のための暫定措置に関する法律に移行して規定された。


コ昭和43年法律第46号により,設備料が3万円に変更された。


サ昭和46年法律第66号により,設備料が5万円に変更された。


シ昭和51年法律第86号により,設備料が8万円に変更された。


ス昭和53年3月,約89年間の電話積滞状態が解消し,電話を付けたいと希望すれば,申し込んですぐつく電話設備架設体制が実現した(甲A1の5)。


セ民営化,工事負担金
昭和59年,日本電信電話株式会社法(昭和59年法律第85号)が制定され,昭和60年4月1日,被告NTT株式会社が設立され,電電公社の加入電話契約に係る権利義務を承継した。これに伴い,公衆電気通信法は廃止され(ただし,電電公社と締結した契約に基づく同法の規定による電話加入権については,電話加入権の譲渡等の規定はなおその効力を有するものとされた。同法附則9条),電気通信事業法(昭和59年法律第86号)が制定され(昭和60年4月1日施行),電話機や回線利用制度が自由化されるとともに,複数の事業体が競争原理に基づく市場に自由に参加して,通信サービスが営めるようになった。同法31条(契約約款の認可等)により,電気通信サービス料金や提供条件の設定・変更は,国会の統制から郵政大臣の認可事項となり,電話約款で定められることとなった。また,設備料は,電気通信事業法の施行と同時に,電話約款において工事負担金と名称を変えて規定され,金額も8万円から7万2000円に変更された。これは,屋内配線及び電話機に関する宅内工事費8000円について,通信機器端末販売が自由化され,他社でも宅内工事ができるようになったため,宅内工事費8000円を設備料8万円から差し引き,工事負担金としたものである。


ソ施設設置負担金
平成元年4月,電話約款上,工事負担金は施設設置負担金に名称が変更された。なお,金額は従前どおり7万2000円のままとされた。


タ未使用回線の存在
平成3年度末ころにおいて,被告NTTが敷設した総回線数のうち実際に使用に供されているのは約66パーセントであり,約34パーセントが実際には使用されていない未使用回線であった。

チパンフレット平成6年2月ころ作成の被告NTT株式会社のパンフレットには,「いつまでも大切な財産になるから」「電話の権利は,引っ越しをしても時代が過ぎても,ずっと使えるから,初めて持つ財産にぴったり。」との記載がある(乙A17)。


ツ未使用回線の存在の合理性について
平成7年の基本料金改定について審議した平成6年10月27日の郵政省電気通信審議会では,加入者回線設備のうち全体の約34パーセントが実際には使用されていないことについて審議が行われ,未使用回線が生じている背景には,新規加入・移転,故障対応等のために常に一定の予備回線を確保する必要があること,大量生産によるコスト低減化のためケーブルの種類が限定されていることから需要を上回る容量のケーブルを敷設する必要があること,敷設に係る総費用を抑制するため,敷設工事の周期をできる限り長期化する観点から,常に相当の余裕をもって設備を敷設する必要があること等の事情があることから,現状程度の未使用の加入者回線設備があること及び未使用の設備に係る費用を含めて料金算定を行うことにも一定の合理性があると考えられるとの内容の答申が出された(乙A21)。


テINSネット64・ライト導入
被告NTT株式会社は,INSネット64・ライト(施設設置負担金の支払は不要であるが,月々の基本料に640円が加算される料金プラン)を導入することとし,平成9年6月27日付けで,郵政大臣から,かかるISDN約款の認可を受け,同年7月7日よりサービス提供を開始した。なお,平成9年6月27日付郵政省電気通信審議会答申においては,「施設設置負担金と加入者回線コストとの関係について調査し,その結果も踏まえつつ,施設設置負担金の在り方について検討を行うこと」「今回の新しい契約タイプの提供に当たっては,利用者に対し,従来の契約タイプとの料金の比較などサービス内容が十分周知されること」との要望事項が付された(丙A11)。加入電話回線数は,平成9年11月,約6322万回線でピークとなり,その後は携帯電話の普及等により減少した(乙A5)。


ト加入者回線設備等についての報告
被告NTT株式会社は,平成10年6月24日付け報告書(「第1種総合ディジタル通信サービス契約・タイプ2の提供に係る認可に際し,貴省から講じることとされた事項に対する措置について」と題する書面)を郵政省に提出し,これまでに取得された加入者回線設備(加入者線路及び地中設備の合計)の累計固定資産額(施設設置負担金の圧縮前・設備除却分の控除後)は,平成8年度末現在で約8兆8000億円にのぼり,これまでの加入数増加や設備エリアの面的拡大により,現在でも増加傾向にあること,施設設置負担金に対応する1回線当りの増設資産額は,新旧混在した累計取得資産ベースで,加入者線路設備で平均8万2000円ないし8万4000円,地中設備で4万4000円ないし4万5000円,合計で12万6000円ないし12万9000円を要していること,実際の加入者回線の工事事例からサンプル調査を行ったところ,一部区間で既設設備を利用するケースで既設設備を除く増設した加入者線路の資産額のみで1回線当り8万円ないし17万円を要している状況であること,加入者回線の増設投資額は,現行の施設設置負担金を上回る水準にあり,現行の施設設置負担金7万2000円は,その設備投資のうちの一部に充当していることなどを報告した(乙A20)。


ナNTT再編
平成11年7月1日,被告NTT株式会社は,日本電信電話株式会社法の一部を改正する法律(平成9年法律第98号)に基づき持株会社となり,被告NTT株式会社から分社した被告NTT東西が被告NTT株式会社の加入電話契約に係る権利義務を承継した。


ニドライカッパ開放
被告NTT東西は,電気通信事業法の改正(平成9年法律第97号)により第一種電気通信事業者とほかの電気通信事業者との間における接続に関する規定が整備されたことを受けて,ドライカッパを他事業者に貸し出すこととなり(ドライカッパ開放),平成12年,郵政大臣から接続約款の認可を受けた。

ヌプライスキャップ制度導入電気通信事業法の改正(平成10年法律第58号)により,平成12年10月以降,特定電気通信役務に関する料金について,プライスキャップ制度(上限価格方式)が導入された(なお,詳細は後記(3)イ参照)。


ネ総務省
平成13年1月,中央省庁再編により,郵政省は自治省及び総務庁と統合し,通信事業は総務省の監督下に置かれることとなった。


ノ加入電話ライトプラン導入被告NTT東西は,加入電話ライトプラン(施設設置負担金の支払は不要であるが,月々の基本料に640円が加算される料金プラン)を導入することとし,平成14年2月1日付けで,総務大臣から,かかる電話約款の認可を受け,同月12日よりサービス提供を開始した。なお,加入電話ライトプランの追加によっても,被告NTT東西の料金指数がプライスキャップの基準料金指数を超えるものではなかったことから,料金の認可は不要とされた。


ハ本件答申
総務省情報通信審議会は,平成16年10月19日付けで「平成17年度以降の接続料算定の在り方について」の答申(本件答申)を出した。本件答申では,以下のような点が指摘された(乙A8)。
(ア) 契約者数が増えていた時代には,ネットワークの円滑な拡張のための資金調達という観点から,施設設置負担金にも一定の意義があったといえる。また,施設設置負担金受入相当額については,会計上圧縮記帳が認められており,圧縮記帳分に相当する資産に係る減価償却費が発生しないことから,基本料水準が低く抑えられてきたという効果があったことが認められる。
(イ) しかしながら,近年固定電話の契約者数が減少傾向にあり,加入者回線設備の新規投資も減少し,維持・更新投資が大半となっていることから,前払いという形で加入者回線設備の投資資金を調達する意味が低下してきたと言える。
(ウ) 加えて,最近の新規加入の状況を見ると,ライトプランを選択するユーザが圧倒的に多いことからしても,電話加入者にとって施設設置負担金は大きな負担となっていると推測される。
(エ) 施設設置負担金を見直したからといって,電話加入権が消滅するわけではなく,既存の電話加入者から加入電話契約に基づく権利を剥奪したり,制限したりするものではない。
(オ) 質権法や税法等における電話加入権の取扱いは,市場において需給関係に応じた価格が設定され売買が行われていることを前提として定めら得たものであり,これらの法律によって電話加入権の価格が保証されていると解することはできない。
(カ) 施設設置負担金の額は電話加入権の価格ではなく,施設設置負担金の見直しにより事実上電話加入権の市場価格が低下したとしても,その市場価格まで保証すべき義務は契約上存在しない。
(キ) 合理的な理由をもって施設設置負担金の見直しを行った結果,既存の電話加入者と新規の電話加入者とで費用負担に差異が生じることは,利用の公平に反する,あるいは不当な差別的取り扱いに当たるとは言えないと考えられる。
(ク) 携帯電話,IP電話(注:インターネットプロトコルを利用して音声のやりとりを行うものをいう。)へのシフトに加えて,NTT東日本及びNTT西日本の加入者回線を利用した直収電話サービスの提供開始が予定されており,今後,地域通信市場における競争は既存の固定電話だけに閉じたものではなく,これらのサービスとの競争も視野に入れていくことが必要となってくると考えられる。これらのサービスにおいては,施設設置負担金見合い分も含め,加入者回線設備に必要な費用は月々のドライカッパ接続料において負担されており,直収電話サービス提供事業者は加入時に施設設置負担金を徴収する必要がない。したがって,NTT東日本及びNTT西日本にとっては,競争対抗上の観点から,できる限り早期に見直しを実施する必要性が高まってきたと言える。
(ケ) 既に本来の意義を失い,新規加入の妨げとなり得る施設設置負担金については,NTT東日本及びNTT西日本が自らの料金戦略として,廃止も選択肢とした見直しを欲するのであれば,それは容認されるべきものと考える。
(コ) 施設設置負担金の見直しは,基本料と同様,最終的にはNTT東日本及びNTT西日本の経営判断の問題である。NTT東日本及びNTT西日本においては,既存の電話加入者や電話加入権取引市場の動向,自社の財務への影響等に配慮しつつ,今後の競争環境へ対応するための自らの料金戦略として判断することが適当である。
(サ) 既存加入者が過去に支払った施設設置負担金が,固定電話網の整備に役立ってきたこと,市場において,現在も電話加入権の売買や電話加入権を担保とした貸付が行われていること,答申案に対する意見募集において,施設設置負担金の見直しによる影響を懸念する意見が多く出されたことは事実であり,その見直しに当たっては,既存加入者や関連市場等に対し一定の配慮(例えば,施設設置負担金がある日突然廃止され,施設設置負担金を支払った者が,それにより整備されたネットワークの便益を教授できないようなことがないよう,十分な周知及び実施までの期間を取り,段階的に実施すること)を行うことは必要と思われる。
(シ) 更に,施設設置負担金と電話加入権の違いを理解していないユーザが多いとの指摘がある。施設設置負担金がどういう性質のもので,どういう使われ方をしているのか,必ずしも国民が理解していないとの懸念が表明されており,NTT東日本及びNTT西日本においては,日頃から利用者に対して説明することが必要と考えられる。
(ス) 仮に施設設置負担金を廃止することとなった場合には,政府においては,過去の措置等も参考に,電話加入権の税法上の取り扱いについて必要な措置を検討することが求められる。ヒ施設設置負担金の見直しについてのお知らせ平成16年12月,被告NTT東西は,ハローインフォメーションに本件答申の概要等を掲載するなどした上で,平成17年3月1日から施設設置負担金(ライトプランの加算額を含む。)を値下げする旨告知した。また,この中で,施設設置負担金は,加入電話等のサービス提供に必要な被告NTT東西の市内交換局ビルから電話加入者宅内までの加入者回線設備の建設費用の一部を,基本料の前払い的な位置付けで負担いただくものであり,1回線当たりの投資額は約16万円である旨説明した(乙A5,6)。フ施設設置負担金の半額化等平成17年3月1日,被告NTT東西は,総務大臣への事前届出を経て電話約款を変更し,加入電話(各ライトプランを除く。)に係る施設設置負担金を7万2000円から3万6000円に値下げし,ライトプランに係る基本料加算額を月額640円から250円に値下げした。


(2) 電話約款の規定(乙A1,2)


ア電話約款には,電話加入者の有する権利に関して,以下のような規定が置かれている(なお,以下でいう「当社」とは被告NTT東西を意味する。)
(ア) 3条(用語の定義)
この約款においては,次の用語はそれぞれ次の意味で使用します。8 加入電話契約当社から加入電話の提供を受けるための契約
(臨時加入電話契約となるものを除きます。)
(イ) 21条(電話加入権の譲渡)
1項電話加入権(加入電話契約者(タイプ2に係る契約者を除きます。)が加入電話契約(タイプ2に係るものを除きます。)
に基づいて加入電話の提供を受ける権利をいいます。以下同じとします。)の譲渡は,当社の承認を受けなければ,その効力
を生じません。5項加入電話契約(タイプ2に係るものに限ります。)に係る電話加入権は譲渡することができません。
なお,ISDN約款(乙A3,4)にも第1種契約につき上記と同旨の条項がある(3条・8,19条1項,5項)。また,昭和60年電話約款(甲A44),平成8年電話約款(甲A45)の段階ではタイプ2が存在しないためこれに言及する部分はないが,それ以外の部分については同旨の規定があった(昭和60年電話約款3条・8,24条1項,平成8年電話約款3条・8,23条1項)。
イまた,電話約款には,施設設置負担金等に関して,以下のような規定が
置かれている。
(ア) 74条(施設設置負担金の支払義務)
契約者は,電話サービスに係る契約の申込みをし,その承諾を受けたときは,料金表第2表第1(施設設置負担金)に規定する施設設置負担金の支払いを要します。ただし,契約者回線の設置工事の完了前にその工事に係る契約の解除があった場合は,この限りでありません。この場合,既にその施設設置負担金が支払われているときは,当社は,その施設設置負担金を返還します。
(イ) 75条(工事費の支払義務)
1項契約者は,契約の申込み又は工事を要する請求をし,その承諾を受けたときは,料金表第2表第2(工事費)に規定する工
事費の支払いを要します。ただし,工事の着手前にその契約の解除又はその工事の請求の取消し(以下この条において「解除等」といいます。)があった場合は,この限りでありません。この場合,既にその工事費が支払われているときは,当社は,その工事費を返還します。2項工事の着手後完了前に解除等があった場合は,前項の規定にかかわらず,契約者は,その工事に関して解除等があったときまでに着手した工事の部分について,その工事に要した費用を負担していただきます。この場合において,負担を要する費用の額は,その費用の額に消費税相当額を加算した額とします。
(ウ) 料金表
a 通則
1 当社は,契約者・・・がその契約に基づき支払う料金のうち,基本料金及び通話に関する料金は料金月に従って計算します。
ただし,当社が必要と認めるときは,料金月によらず随時に計算します。8 契約者は,料金及び工事に関する費用について,当社が定める期日までに,当社が指定する電話サービス取扱所又は金融機関等において支払っていただきます。
b 第1表料金(項目抜粋)
第1 基本料金
c 第2表工事に関する費用(項目等抜粋)
第1 施設設置負担金
1 適用
2 施設設置負担金の額
加入電話(タイプ2に係る加入電話契約及び臨時加入電話契約以外のものに限ります。)・単独電話1契約者回線ごとに36,000円(税込価格37,800円)第2 工事費1 適用
(1) 工事費の算定
工事費は,基本工事費と施工した工事に係る交換機等工事費,屋内配線工事費及び機器工事費を合計して算定します。なお,ISDN約款(乙A3,4)にも上記と同旨の条項がある(53条,54条1,2項,料金表)。昭和60年電話約款(甲A44)においては,施設設置負担金3万6000円ではなく工事負担金7万2000円として同旨の規定があった(119,120条1,2項,料金表)。また,円として同旨の規定があった(105,106条1,2項,料金表)。
(3) 被告NTTの料金体系に係る規制について
ア総括原価方式(乙A7,19,22,24,丙A7)
(ア) 概要
被告NTT株式会社の設立に伴って制定された電気通信事業法(昭和60年4月1日施行)31条(契約約款の認可等)により,施設設置負担金等の電気通信サービス料金や提供条件の設定・変更は,国会の統制から郵政大臣の認可事項となり,契約約款で定められることとなった。同規定によれば,郵政大臣は,@料金が能率的な経営の下における適正な原価に照らし,公正妥当なものであること,A料金の額の算出方法が適正かつ明確に定められていること,B特定の者に対し不当な差別的取り扱いをするものでないこと等が認可基準とされた(同法31条2項各号参照)。昭和61年3月17日付けで採用された電気通信料金算定要領によれ
ば,料金は,サービス単位ごとに,能率的な経営の下における適正な原価に適正な報酬を加えた総括原価を基礎として算定するものとされ(総括原価方式),総括原価は,営業費,減価償却費及び諸税を合計した原価に真実かつ有効な電気通信事業用資産の価値(レートベース)に報酬率を乗じて算定された適正な報酬を加えて算定するものとされた。そして,料金体系は,コストを基礎として,利用者の負担能力,サービスの効用,設備の有効利用,過去の沿革等を勘案して,社会的,経済的にみて合理的なものとなるように定めるものとされ,決定された料金体系をもって算定した料金収入見込額は,総括原価と一致するものでなければならないとされた。
(イ) 被告NTTについて
被告NTTは,昭和60年以降,平成10年の電気通信事業法改正まで,上記の認可基準のもとで施設設置負担金を含めた料金設定について認可を受けていた。イプライスキャップ制度
(ア) 概要(乙A24,丙A8の1ないし3,弁論の全趣旨)
プライスキャップ制度(上限価格方式)とは,被告NTT東西の利用者向け料金を対象に,音声伝送役務と専用役務の区分ごとに,通常実現することができると認められる水準の料金指数を基準料金指数として定め,これを全体の料金水準の上限とする規制方式である。この方式の下では,区分全体として,基準料金指数を超える料金の引き上げは原則として認めず,また,基準料金指数以下の料金は届出のみで事業者が自由に設定できるものとされる。同届出には,料金の設定又は変更後の料金指数及びその算出の根拠に関する説明が要請されている。上記基準料金指数は,総務大臣が,特定電気通信役務の種別(バスケット)ごとに,能率的な経営の下における適正な原価及び物価その他の経済事情を考慮したうえで,具体的には,消費者物価指数(CPI)変動率と,被告NTT東西に期待される生産性向上見込率(X値)を勘案して定められるものである。
(イ) 制度導入の経緯
平成10年5月に公布された改正後の電気通信事業法において,導入された。その後,平成12年3月にまとめられた「上限価格方式の運用に関する研究会」からの報告書(丙A8の1)に基づいて,郵政省により生産性向上見込率(X値:音声1.9パーセント,専用2.1パーセント)が設定され,それを用いて基準料金指数が,電気通信審議会での諮問,答申を経て,同年6月ころには策定された(丙A8の1,8の2,弁論の全趣旨)。特に,施設設置負担金等を必要とする加入者回線に係る音声伝送役務については,サブバスケットとして独立した基準料金指数がとられ,X値については,CPIと同じものと設定され,基準料金指数については,100と設定された。基準料金指数については,3年ごとに検討されるものとされ,平成15年4月,平成18年4月には,プライスキャップの運用に関する研究会から報告書が上呈され,基準料金指数が見直されているが,平成18年に至るまでいずれも100とされている。なお,加入者回線に係る音声伝送役務についてのサブバスケットについては,平成12年3月の報告では,収支状況が悪化している収支動向を基に平成14年度の収支を予測すれば,料金値上げを容認するようなX値となる可能性があること,会計上の実際の収支が施設設置負担金圧縮後であることから,収支予測を算定すること自体が技術的に困難であ
ること等の理由から,X値を計算して求めて使用することは適当でない(丙8の1)とされ,平成15年4月の報告書でも,上記平成12年の報告書の整理に加え,IP電話という予測困難な要因もあることから,平成17年度までの期間についも,CPIをX値として運用することが妥当とされた(丙8の2)。そして,平成18年4月の報告書でも同様に,「本研究会としてもNTSコストの付替えによって回収すべき費用が増加していることは認識しているものの,NTT東日本・NTT西日本の施設設置負担金に係る収支について,圧縮記帳前のデータが存在しないことから具体的なX値の算定を行うべき合理的な根拠を見出すことは困難であり,前回及び前々回同様,X値を消費者物価指数変動率とすることが適当と考えられる」とされている(丙8の3)。また,平成15年4月,平成18年4月いずれの報告書においても,基本料や施設設置負担金等について検討が行われた場合には,見直しが必要である旨も報告され,特に,平成18年4月の報告書では,基本料と通話料について各事業者の経営判断によって自由に組み合わせて設定することが実態として可能になってきている状況下において,加入者回線サブバスケットを独立して設定することの意義が低下している可能性があるとして,同バスケットの取り扱いについては,施設設置負担金の段階的な廃止等の検討課題に対する被告NTT東西の動向を踏まえつつ検討を行う必要があると明示している。
(ウ) 導入後の運用について
a 平成12年6月21日,同年10月から1年間適用される基準料金指数が通知された。それを踏まえ,被告NTT東西から,同年8月31日,料金変更後の料金指数及びその算定根拠に関する説明を付して料金変更届出書が郵政大臣に提出され,それが受理されたことから,同年10月1日から,同変更後の料金設定が実施された(乙A24,25の1の1,25の2の1)。b その後も,平成13年6月28日,平成14年6月28日,平成15年6月30日,平成16年6月30日,平成17年6月30日,平
成18年6月30日に,それぞれ郵政省ないし総務省から通知された基準料金指数に基づいて,被告NTT東西ともに各直近の料金指数が,基準料金指数を下回る旨の届出を郵政大臣ないし総務大臣に提出し,いずれも受理され,各年の10月1日から変更後の料金設定が実施された(乙25の1の2ないし7,乙25の2の2ないし7,弁論の全趣旨)。
(4) 施設設置負担金の会計上の扱い(乙A27の1の1ないし27の3の4,
弁論の全趣旨)
ア会計上の扱い
被告NTTは,施設設置負担金として受領した額を建設費用の一部を賄う料金として設定し,会計上,年度ごとに施設設置負担金として徴収した額を契約者回線設備の新規取得資産額から控除する会計処理を行っている。具体的には,加入者回線設置コストのうち建設費用に対して,施設設置負担金を充当して,会計上圧縮記帳により,建設費用から施設設置負担金の額を減額して,基本料をその分割安に設定している。
イ被告NTTの有価証券報告書
被告NTT株式会社について,昭和60年度の有価証券報告書には,工事負担金受入れによる電気通信線路設備の取得価額の圧縮記帳額として,1223億6200万円が記載されており,同様に昭和61年度では,工事負担金受入れによる市内線路設備の取得価額の圧縮記帳額として1288億円,昭和63年度では1465億6200万円,平成元年度では1610億8600万円,施設設置負担金の受入れによる市内線路設備の取得価額の圧縮記帳額として,平成2年度では1607億300万円,平成3年度では1644億8500万円,平成4年度では1711億1900円,平成5年度では1600億9500万円,平成6年度では1347億3400万円,平成7年度では1321億5100万円,平成8年度では1466億4700万円,平成9年度では1347億9800万円,平成10年度では969億9500万円,平成11年度では590億2000万円が計上されている。また,被告NTT東西が分社された後も連結会計として,施設設置負担金の受入れによる市内線路設備の取得価額の圧縮記帳額として,平成12年度では395億4300万円,平成13年度では330億2400万円,平成14年度では196億1700万円を計上している。そして,被告NTT東日本では,施設設置負担金による市内線路設備の圧縮額として,平成15年度では54億0800万円,平成16年度では33億0400万円,平成17年度では16億3600万円,平成18年度では7億4600万円,被告NTT西日本では,同様に平成15年度では48億1000万円,平成16年度では30億6600万円,平成17年度では16億0800万円,平成18年度では7億2700万円を計上している。
(5) 電話加入権市場の売買価格について(乙A5,9,10)
電話加入権取引市場(東京)における売買価格は,昭和20年から昭和50年ころまでは,市場価格が施設設置負担金(当時の設備料等)を大きく上回っていたが,電話の積滞が解消し始めた昭和50年ころから市場価格が施設設置負担金(設備料等)の額をやや下回る6万円前後となり,加入電話純増数が減少傾向となった平成3年ころから下落を始め,ISDNを加えた固定電話数が純減に転じた平成9年以降はさらに大きく下落した。すなわち,平成7年3月で5万5000円であったものが,平成8年3月では5万1000円,平成9年3月では4万3000円,平成10年3月では3万8000円,平成11年3月では3万4000円,平成12年3月では3万8000円,平成13年3月では3万5000円,平成14年3月では2万円,平成15年3月では2万1000円,平成16年3月では1万9000円,平成16年10月では1万1000円であったと調査されている。


2 争点1(電話加入者の有する権利・利益の性質・内容)について
(1) 原告らは,原告ら電話加入者においては,加入電話契約に基づいて加入電話の提供を受ける権利(被告らのいう「電話加入権」)を有しているにとどまらず,被告NTTに対して,支払った施設設置負担金に相当する金銭の回収を求め得る金銭債権ないし返還請求権を有している旨主張し,あるいは電話加入権は施設設置負担金相当額の金銭価値があることが保証されている権利である旨を主張しているものと解される。そこで,以下,電話加入者がいかなる権利・利益を有しているかについて検討する。
(2) 法令及び加入電話契約にいう電話加入権等について
ア電話加入権について
(ア) 公衆電気通信法にいう電話加入権
「電話加入権」という文言を用いる法令は各種存在するが(例えば法人税法2条22号など),電話加入権の意義につき直接規定したものとしては,公衆電気通信法(昭和28年法律第97号。なお,電気通信事業法(昭和59年法律第86号)により廃止)が存在する。すなわち,公衆電気通信法31条は,「電話加入権(加入電話加入者が加入電話加入契約に基づいて加入電話により公衆電気通信役務の提供を受ける権利をいう。以下同じ。)」と規定して,電話加入権の意義を明らかにしている(丙A2)。
(イ) 加入電話契約にいう電話加入権
また,加入電話契約の内容を定める電話約款について検討すると,電話約款上,電話加入権の意義に関わるものとして,認定事実(2)アのとおりの規定が存在するものと認められ,それによれば,「電話加入権」とは,加入電話契約に基づいて加入電話の提供を受ける権利をいうもの(電話約款21条1項)ということができる。これは,上記公衆電気通信法31条の規定ともほぼ一致するものである。なお,電話約款21条5項の規定に照らせば,譲渡することができないタイプ2,すなわちライトプランについても電話加入権の存在することが観念されていることが明らかであって,電話約款にいう電話加入権については,譲渡性の有無は要件となっていないということができる。
(ウ) したがって,法令及び加入電話契約にいう電話加入権とは,加入電話契約に基づいて加入電話の提供を受ける権利,すなわち非金銭債権たる財産権であるということができる。
イ施設設置負担金等について
(ア) 施設設置負担金の系譜
原告らは,電話加入権をもって施設設置負担金に相当する金銭債権であるとか,施設設置負担金の返還請求権を有している等と主張するので,ここで施設設置負担金について検討する。認定事実((1)ア(ウ),エ,キ,ケないしシ,セ,ソ,フ)のとおり,現在電話約款上に定められている施設設置負担金は,かつては電信電話料金法において装置料(当初1500円,その後,4000円に値上げされた。)として定められていたが,その後,公衆電気通信法における装置料(4000円),同法における設備料(当初は1万円であったが,3万円,5万円,8万円と順次変更された。),電話約款における工事負担金(7万2000円),電話約款における施設設置負担金(当初7万2000円であったが,後に3万6000円に変更された。)と,根拠法令や名称,金額を変更して現在に至っているものと認められる(原告は,加入時の金銭負担について電話設備負担金ないし電話加入権料と呼称するが,以下では,特にことわりがない限り,約款の記載に従い「施設設置負担金」と呼称する。)。
(イ) 電話約款の規定
a 施設設置負担金に関連する電話約款の規定としては,認定事実(2)イのとおりの規定が存在するところ,これによると,施設設置負担金については,以下の点が認められる。
@ 料金表上,工事に関する費用の一つとして位置づけられており,基本料金や通話に関する料金などとは別個のものであるということができる。このことは,「施設設置負担金」という名称,(ア)で述べたかつての「装置料」「設備料」「工事負担金」といった名称とも整合するということができ,基本料金や通話に関する料金が月額払いとされているのに対し,施設設置負担金が契約の成立時に支払うべきものとされていることにも沿うものである。
A また,同じく工事に関する費用の一つとして規定されているものとして工事費があるが,工事費は,具体的に施工された工事費用によって負担額が変動するのに対し,施設設置負担金は,具体的に施工された工事等にかかわらず,電話加入者一律に,一定(現在は1契約者回線ごとに3万6000円)の負担を要するものとされているという特徴がある。b また,電話約款74条本文によると,電話加入者は,加入電話契約の申込みをし,その承諾を受けたとき,すなわち加入電話契約が成立したときには,施設設置負担金の支払をすることとされているが,「ただし,契約者回線の設置工事の完了前に加入電話契約の解除があった場合には,この限りでない」,すなわち施設設置負担金の支払を要せず,既に施設設置負担金が支払われているときはこれを返還するものとされている(同条但書)。上記のような規定の体裁に照らすと,電話約款においては,74条但書以外の場合(例えば工事完了後に契約解除があった場合など)には,既に支払われた施設設置負担金については返還しないとしていると解するのが相当である(この点につき,甲A第43号証(bの意見書。以下「b意見書」という。)には異なる見解が示されているけれども,一般的に,本文の記載に対して,但書きは例外的な場合を規定した趣旨と解するのが相当であるから,採用することはできない。)。
(ウ) 以上によれば,加入電話契約上,施設設置負担金は,電話加入者が,契約時に実施された具体的な工事の程度いかんにかかわらず,契約成立時に一律に負担すべき,敷設された電話施設の工事に関する費用の一部であって,工事完了前に契約解除がされた場合を除いては電話加入者に返還されることはないものということができる。なお,施設設置負担金の具体的な使途は加入電話契約あるいは電話約款自体からは不明であるが,認定事実((1)ト,ヒ,(4))によると,被告NTTの市内交換局ビルから電話加入者宅内までの加入者回線設備の建設費用の一部として用いられてきたものと認められ(甲A4,乙A5,6),これを覆すに足りる証拠はない。ウ法令及び加入電話契約にいう電話加入権以上によると,法令及び加入電話契約にいう電話加入権とは,加入電話契約に基づいて加入電話の提供を受ける権利,すなわち非金銭債権たる財産権であって,施設設置負担金とは別の概念であると認められる。そして,法令及び加入電話契約上,被告NTTに対して支払った施設設置負担金に相当する金額の金銭債権ないし施設設置負担金返還請求権を認めることはできず,電話加入権が,施設設置負担金相当額の金銭価値があることが保証されている権利であるということもできない。
エ原告の主張について
(ア) この点に関し,原告らは,各種法令等において電話加入権が財産権であることが認められている旨を主張する。確かに,例えば法人税法2条22号は,「固定資産土地(土地の上に存する権利を含む。),減価償却資産,電話加入権その他の資産で政令で定めるものをいう。」と規定し,電話加入権を固定資産,すなわち財産権の一種として規定しているものと認められる。しかしながら,非金銭債権であっても,一定の財産的価値を有する場合はあり得るところであり,原告ら指摘の各種法令は,従前電話加入権に取引市場が形成されていた実態を踏まえ,電話加入権が社会実態として相応の価値があるものとして評価され得ることを示すということはできても,電話加入権が金銭債権であることや,一定の金銭価値を有することが保証されていることなどを意味するものとは言えず,原告らの主張は採用することができない。なお,原告らは企業会計上,電話加入権につき,施設設置負担金の額が非減価償却の無形固定資産として資産計上されてきた旨も主張する。しかしながら,このことも,従前,電話加入権に一定の価値が形成され,維持されていた実態を踏まえてそのように扱われていたことを示すに過ぎず,この主張も同様に採用することができない。
(イ) また,原告らは,電話加入権質に関する臨時特例法(昭和33年法律第138号)が制定されたことによって電話加入権が法的に財産的価値のある債権として認知された旨を主張する。しかしながら,質権(民法342条以下)が設定できる債権は金銭債
権に限られるわけではなく,譲渡性があり交換価値があれば質権設定は可能と解されているから,電話加入権に質権を設定することが認められたからといって,電話加入権が金銭債権としての側面を有することにはならず,また一定の金銭価値を有することが保証されていることを意味するものとも言えない。
(ウ) さらに,原告らは,電話加入者が施設設置負担金等の返還を受けられることの根拠として,電話加入権質に関する臨時特例法12条が,施設設置負担金等の返還があり得ることを前提として当該返還金に対する物上代位を認めていることを指摘する。しかしながら,同法12条1項は,「会社(注:電電公社のこと)は,質権が設定されている電話加入権に係る契約の解除をした場合において,当該電話加入権を有していた者に支払うべき金銭(以下「返還金」という。)があるときは・・・その返還金を供託しなければならない。」と規定するのみで(認定事実(1)ク),解除の際に施設設置負担金相当額の支払がされなければならない旨を規定したものではないから,この規定をもって,電話加入者が金銭債権ないし返還請求権を有していることの根拠とすることはできない。
(エ) なお,原告らは,甲A第43号証(b意見書)に基づいて,電話約款74条但書は契約者回線の設置工事完了前の解除の場合には原状回復として施設設置負担金を返還するという当然のことを注意的に定めたのみであり,契約者回線の設置工事完了後であっても施設設置負担金の返還等がされるか否かは明確にされておらず,電話約款の解釈上,施設設置負担金の返還請求をすることができないということにはならない旨主張する。しかしながら,電話約款においては,74条但書以外の場合には,施設設置負担金の支払を要し,既に支払われた施設設置負担金について返還しない旨を定めていると解されることはイ(イ)bで述べたとおりである。また,電話サービス契約は継続的契約であるから,ここでいう解除は解約告知であり,原状回復義務は従前の債務を遡及的に消滅させることなく,将来に向かって効力が生じるものと解されるところ,上記のとおり,施設設置負担金は,敷設された電話施設の工事に関する費用の一部として契約成立時に支払われるものであるから,施設設置負担金の支払が完了し,工事も完了すれば,電話加入者の債務も被告NTTの債務も,いずれも履行され消滅したこととなると解される。そうすると,契約成立時に支払われた施設設置負担金については,工事完了後においては,解除(解約告知)があったからといって返還されると解することはできないものというべきであって,電話約款74条が,工事完了前に解除があった場合には施設設置負担金の返還をする旨規定したのも,上記の理解に整合するものと解される。b意見書は,施設設置負担金が工事の費用ではないとの前提で立論しているものと解されるが,上記のとおり,施設設置負担金は,敷設された電話施設の工事に関する費用の一部として支払われるものということ
ができるから,その前提を欠き,採用することができない。
オ小括
以上によれば,法令及び加入電話契約上,電話加入権とは,加入電話契約に基づいて加入電話の提供を受ける権利,すなわち非金銭債権たる財産権を言うと解され,施設設置負担金相当額の金銭価値があることが保証されている権利であるとか,被告NTTに対する施設設置負担金に相当する金銭債権ないし返還請求権であると言うことはできない。


(3) 電話加入者が,法令及び加入電話契約上の電話加入権以上の権利を有するか

電話加入者は法令及び加入電話契約に基づいて権利義務を有するのであるから,通常は,法令及び加入電話契約において定められた権利以外の権利を有することはないはずである。
これに対し,原告らは,電話加入権をめぐる歴史的経過等,具体的には,@被告NTTによる資金調達と投下資本回収についての説明によって形成された電話加入権の社会実態,A電電債との実質的同一性,B第二次世界大戦後,電話加入権を没収された者に補償が行われたことなどを挙げて,電話加入者は電話加入権以上の権利ないし利益を有しており,あるいは本来有すべきである旨を主張しているものと解される。しかしながら,以下のとおり,原告らの主張には理由がない。
ア社会実態としての電話加入権について
(ア) 原告らは,被告NTTが電話加入権を都合のよい資金調達手段として用いてきた上,電話加入権につき資産価値のある「財産になる」から施設設置負担金を支払っても電話を付ける価値がある,電話がいらなくなれば売却もできるなどと説明して新規加入者を勧誘してきたこと,電話加入者の側はこのような被告NTTの説明を信用し,投下資本を回収できるからこそ納得して施設設置負担金を支払ってきたことなどを挙げて,これらの事情によれば,電話加入者には被告NTTに対し,施設設置負担金に相当する金銭債権ないし返還請求権が認められ,あるいは電話加入権につき施設設置負担金に相当する価値が保証されるべき旨を主張す
る。そして,確かに,平成6年3月ころに,再編前の被告NTT株式会社の富山県高岡支店において配布されたパンフレットに,「いつまでも大切な財産になる」という文言が記載されていたこと(乙A17),平成16年6月15日には,日本消費者連盟から,「アンケート調査によれば65パーセントの人が設置負担金と電話加入権の区別ができておらず,返金されると信じている人も多い」と指摘されていること(甲A14),原告らの多くが,電話加入権を財産であると考えており,被告NTTから譲渡や質入れのできる価値のあるものであるとの説明を受けていたこと(甲B1ないし171の各1)が認められる,しかしながら,@上記パンフレットには,「電話の権利は,引っ越しても,時代が過ぎても,ずっと使える」と書いてあるにとどまり,施設設置負担金相当額の返還を求め得る権利であるとか,施設設置負担金相当額の価値が保証されている権利であるなどとは書かれていないこと(乙A17),A電話加入権が,当時,譲渡性のある財産権であったことは間違いなく,社会実態上の交換価値を有するものとして扱われていたことからすれば,「財産になる」,「売却もできる」と説明したことが誤りとは言えないこと,B施設設置負担金の返還を受けられると誤信している者がいるとしても,そのことが返還請求権を認める根拠とはなり得ないこと,C従来,電話加入権価格は需給関係によって変動しており,施設設置負担金の額と完全に一致していたわけでなく,そのことは電話加入者においても認識し得たと考えられることに照らせば,電話加入者らにおいて,電話加入権に施設設置負担金相当額の価値があると考えたとしても,それは事実上の期待にとどまるものと判断せざるを得ないことからすれば,施設設置負担金に相当する金銭債権ないし返還請求権が認められ,あるいは電話加入権につき施設設置負担金に相当する価値が保証されると解することはできない。
(イ) なお,原告らは,電話加入権の社会実態上の交換価値ないし市場価値について,被告NTT自らが当該市場価値が下がるきっかけを創り出して電話加入権相場をコントロールしていた旨も主張する。しかしながら,この点,証拠(乙A5,9,10)によれば,電話加入権市場は,おおむね認定事実(5)のとおり変動しており,全体として下落傾向を示しているということはできるものの,例えば平成9年7月7日のINSネット64・ライトの開始(認定事実(1)テ)や平成12年のドライカッパ開放に基づく他事業者によるサービスの開始(同(1)ニ),平成14年2月12日の加入電話ライトプランの開始(同(1)ノ)等の前後で顕著な市場価格の下落が認められるというわけではないことが認められる。そしてほかに被告NTTの意向等によって市場価格が左右されていると解することができるような事情が見当たるわけでもない。そうすると,電話加入権の市場価格に,被告NTTの施策が反映していた一面があることは否めないけれども,結局は,通常の市場と同様に,周囲の社会,経済情勢を反映して,需要と供給のバランスによって価格が形成されていたと考えるのが相当であり,被告NTTにおいて,市場価値をコントロールしていたと認めることはできない。


イ電電債の実質的同一性について
原告らは,施設設置負担金と負担金が実質的に同一であり,かつ,負担金と電電債が実質的に同一であるとして,電電債と同様に施設設置負担金についても金銭の返還がされるべきであると主張するものと解される。
(ア) 負担金と装置料・施設設置負担金との異同
しかしながら,2(2)イ(ア)で述べたとおり,施設設置負担金は電信電話料金法で定められていたかつての装置料に相当すると認められるところ,認定事実((1)エ)のとおり,負担金(3万円)は,第二次世界大戦後における電話の復旧や増設の促進のために制定された時限立法である電話設備費負担臨時措置法に基づいて,昭和35年4月に廃止されるまでの一時期のみ,上記装置料とは別に支払が義務づけられたものである。以上によれば,負担金は戦後復興期における特殊な負担というべきであって,これを装置料,ひいては施設設置負担金と同一視することはできない。
(イ) 電電債と負担金との異同,電電債と装置料・施設設置負担金との異同また,電電債は,認定事実((1)カ)のとおり,当初は電話設備費負担臨時措置法の一部を改正する法律によって,装置料(4000円),負担金(3万円)とは別に引受が義務付けられたものであり(6万円),負担金と同一の法律を根拠とし,もともとは戦後復興期における電話の復旧や増設の促進を目的としたものであった。しかしながら,電電債については,利子を付けて償還する債券として,負担金とは明らかに異なる法律構成によっていたこと,電電債は,負担金が廃止された昭和35年4月以降も電信電話設備の拡充のための暫定措置に関する法律に基づいて制度が存続されているのであって,電電債と負担金とを同一視することもできないというべきである。そして,上記のとおり,電電債と装置料とは別個の法律に基づいて別個に支払が義務付けられており,支払額も大きく異なっていたこと,法律構成を全く異にすることなどに照らすと,電電債と装置料,ひいては施設設置負担金とを同一視することもできない。
(ウ) 有線電気通信法及び公衆電気通信法施行法32条についてなお,原告らは,電電債と施設設置負担金の性質が実質的に同一であることの根拠として,有線電気通信法及び公衆電気通信法施行法(昭和28年7月31日法律第98号)32条において,加入電話の増設を申し込んだ者等から負担金を徴収した場合には,後で電電債を交付しなければならないと定められていることを挙げる。しかしながら,同条1項は,加入電話のうち構内交換電話,すなわち交換設備(通話の接続の全部又は一部が手動的に行われるものに限る。)及びこれにより接続される電話機並びにその交換設備と局交換設備との間の電話回線からなるもの(公衆電気通信法26条1項4号・丙A2参照)の加入者等に対して,電電債を交付するか,又は加入電話の増設機械たる交換機等の設備を無償譲渡するかのいずれかを行わなければならない旨を規定したものであり,増設機械たる交換機等の設備を要する特殊な場合について定めたものと解され,電電債と施設設置負担金の性質が実質的に同一であることの根拠とすることはできない。
(エ) 小括
したがって,施設設置負担金と電電債とを実質的に同一視することはできず,施設設置負担金につき電電債と同様に金銭の返還を受けられると解することはできない。ウ第二次世界大戦後,電話加入権を没収された者に補償がされたことについて原告らは,第二次世界大戦における敗戦後,連合国財産の返還等に関する件(昭和21年勅令第294号)及び連合国財産の返還等に伴う損失の処理等に関する法律(昭和34年法律第165号)に基づき,連合国から戦時中に没収した電話加入権を連合国に返還し,その際,返還すべきものとして没収された電話加入権の所有者(日本国民)に対して金銭補償を行ったのであるから,本件においても,電話加入権につき金銭補償がされてしかるべきであると主張する。しかしながら,上記の件は,電話加入者が電話加入権(加入電話契約に基づいて加入電話の提供を受ける権利)そのものを没収され,そのことにつき補償がされたものと解されるのであって,電話加入者において電話加入権を保持し続けている本件とは前提を異にすることが明らかであり,これらを同列に論じる原告らの主張は採用することができない。
エその他,原告らは,被告NTT保有の電気通信網は,電話加入者の負担で作られた共有財産と言うべきであり,電話加入者に対する返還義務がある等,種々の主張をするが,いずれも施設設置負担金相当額の金銭債権ないし返還請求権の発生を根拠付けるものとは言えず,採用することはできない。
(4) 小括
以上のとおりであるから,電話加入者は電話加入権,すなわち加入電話契約に基づいて加入電話の提供を受ける権利(非金銭債権たる財産権)を有するにとどまり,これを超えた権利ないし利益,例えば施設設置負担金相当額の金銭債権ないし返還請求権を有するとはいえないし,電話加入権が施設設置負担金相当額の価値を有するものとして保証されているということもできない。


3 争点2(1)ア(適正料金設定義務違反)について
(1) 原告らは,@電話積滞解消時点,A電電債廃止時点,BINSネット64・ライト認可時点,Cドライカッパ開放時点,D加入電話ライトプラン認可時点,E施設設置負担金を半額にする約款の変更をした時点の各時点以後,施設設置負担金の徴収が不適正・不合理になったことを前提として,被告NTTには,これらの各時点において,これらを踏まえた適正な料金システムに改める法的義務を負っていた旨を主張する。しかしながら,以下のとおり,原告らの主張は理由がない。
(2)ア@電話積滞解消時について
原告らは,電話の積滞が解消した時点で施設設置負担金の徴収が不適正・不合理となった旨主張する。確かに,契約者回線設備の構築にあたっては,契約者の申込の度に繰り返し敷設工事を実施することは経済的でないため,将来の需要を勘案しつつ,予めある程度のまとまった単位で先行して敷設工事を実施しており,それにより,実際に新規に契約し電話を利用開始する際には,事前に敷設された電話ケーブルを利用することによって,すぐに電話の使用が可能となっている事態が存することは,被告NTTも認めるところである。しかしながら,前記認定のとおり,施設設置負担金とは,契約時に実施された具体的な工事の程度いかんにかかわらず,敷設された電話施設の工事に関する費用の一部として支払われるものをいい,実際にも被告NTTの市内交換局ビルから電話加入者宅内までの加入者回線設備の建設費用の一部として用いられてきたものと認められるところ,被告NTTにおいて,過去にまとめて行った工事に係る費用について既に回収済みであると認めるに足りる証拠はない。また,電話積滞,すなわち電話を申し込んでもすぐに電話が開設されない申込繰越の状態が解消されても,それは,電話加入申込をした者が順番待ちをすることなく,すぐに電話開設ができるようになったことを意味するにとどまり,新規需要者に対応するため,契約者回線設備のエリアの面的拡大を行う必要がある場合が存することも認められる(認定事実(1)ト)。そして,契約者回線設備の投資額は,平成16年12月のパンフレットにおいて,なお1回線当たり約16万円であると説明されていること(乙A5,6)からすれば,既設のケーブルを利用することによってすぐに電話の利用が可能となる事態が生じていたとしても,電話加入者に対して,既設及び新設の電話施設の工事費用相当額の負担を求める必要がなくなったことを示すものとはいえない。そうすると,新規需要者に対し,予め実施済みの敷設工事に関する費用又は新設の費用の負担を求めることが不合理とは認められないのであり,電話積滞の解消をもって施設設置負担金の徴収が不適正・不合理となったとする原告らの主張は採用することができない。
イA電電債廃止時について
原告らは,電電債と施設設置負担金が実質的に同一であることを前提に,電電債が廃止された後に施設設置負担金を徴収し続けたことが不適正・不合理であった旨を主張する。しかしながら,前記認定のとおり,電電債は,電話設備費負担臨時措置法の一部を改正する法律によって,戦後復興期における電話の復旧や増設の促進を目的として設けられ,昭和58年に廃止されたものであり,利子を付けて償還する債券であるから,施設設置負担金とは明らかに異なるものである。したがって,電電債と施設設置負担金を実質的に同一視することはできず,電電債が廃止されたからといって,施設設置負担金も廃止すべきであるとか,必要性がなくなったということはできない。
ウBINSネット64・ライト認可時
原告らは,INSネット64・ライトの認可時には施設設置負担金の徴収が不適正・不合理となったと主張する。しかしながら,これは施設設置負担金の支払を不要とした料金プラン(ライトプラン)ではあるものの,他方で月々の基本料に一定額(月々6
40円)を加算しているものと認められる(認定事実(1)テ)。そして,当時,固定電話需要の減少に伴って,新規契約時の初期負担の軽減による需要喚起を図る必要性から,施設設置負担金の支払を不要とする料金プランを設ける合理性があったこと,施設設置負担金相当額は,上記基本料加算額で賄うことにより利用者間の公平性が図られていることからすれば,この料金プランが導入・認可されたことをもって,施設設置負担金の必要性が失われ,その徴収が不適正・不合理となったということはできない。
エCドライカッパ開放時について
原告らは,ドライカッパの開放により,加入当初の資金負担を不要とする料金体系を設定する他事業者が登場したにもかかわらず,被告NTT東西がなお施設設置負担金を徴収することが不公平である旨主張する。しかしながら,仮に他事業者が施設設置負担金に相当する金員の支払を要しない料金プランを導入したとしても,これと被告NTT東西の料金プランを単純に対比することはできないし,その一事をもって,被告NTT東西において施設設置負担金の徴収が不適正・不合理になるということもできない。したがって,この点の原告らの主張は採用することができない。
オD加入電話ライトプラン認可時について
原告らは,加入電話ライトプランの認可時には施設設置負担金の徴収が不適正・不合理となったと主張する。しかしながら,このプランが,施設設置負担金の支払を不要とした料金プラン(ライトプラン)ではあるものの,他方で月々の基本料に一定額(月々640円)を加算して(認定事実(1)ノ),施設設置負担金分はこの加算額によって利用者間の公平性を図っていることはINSネット64・ライトと同様であり,これら料金プランが導入・認可されたことをもって,施設設置負担金の必要性が失われ,その徴収が不適正・不合理となったということはできない。カE施設設置負担金を半額にする約款変更をした時点について原告らは,被告NTT東西が,施設設置負担金の額を1回線当たり7万2000円から3万6000円の半額とする旨の約款変更をした時点において,施設設置負担金の徴収は不適正・不合理となった旨主張する。なお,原告らの主張の趣旨は判然としないところもあるが,この約款変更の時点において,変更前の施設設置負担金を支払った電話加入者に対して配慮した制度(例えば施設設置負担金の一部に相当する金員を返還するなど)を導入すべき法的義務があった旨もあわせて主張しているものと解される。そこで検討すると,総務省情報通信審議会が平成16年10月19日付けで本件答申を出していること,本件答申においては,@固定電話の契約者数が減少傾向にあり,加入者回線設備の新規投資も減少し,前払いという形で加入者回線設備の投資資金を調達する意味が低下してきたこと,A施設設置負担金を見直したからといって,電話加入権が消滅するわけではないこと,B合理的な理由をもって施設設置負担金の見直しを行った結果,既存の電話加入者と新規の電話加入者とで費用負担に差異が生じることは,不当な差別的取扱いに当たるとは言えないと考えられること,C被告NTT東西以外の事業者は加入時に施設設置負担金を徴収する必要がなく,し
たがって,被告NTT東西にとっては,競争対抗上の観点から,できる限り早期に見直しを実施する必要性が高まってきたこと,D既存加入者や関連市場等に対し一定の配慮(例えば,十分な周知及び実施までの期間を取り,段階的に実施)を行うことが必要などとされていることなどが指摘されたこと(認定事実(1)ハ),被告NTT東西が,平成16年12月のハローインフォメーションに本件答申の概要等を掲載するなどした上で施設設置負担金の見直しについてのお知らせをしていること(同(1)ヒ)に照らすと,被告NTT東西は,本件答申の内容を踏まえて,電話約款を変更し,施設設置負担金を従来の半額に引き下げたものと解される(同(1)フ)。そして,本件答申にもあるとおり,被告NTT東西においては,近年,携帯電話やIP電話が登場し,固定電話の契約者数が減少傾向にあるほか,電話加入者にとって施設設置負担金が負担となっていると推測されるなど,固定電話をとりまく状況が変化してきたことを前提に,他事業者との競争対抗上の観点も踏まえて,電話約款を変更して施設設置負担金の半額化に踏み切ったものと認められるのであって,そこには一定の合理的な理由があるということができる。そうすると,この電話約款変更が不適
正・不合理であるということはできず,また,本件答申が,段階的実施等の配慮を求めていることに照らせば,変更後の施設設置負担金を半額化したことについても不適正・不合理であるということはできない。加えて,既に述べたとおり,既存の電話加入者は,電話加入権(加入電話契約に基づいて加入電話の提供を受ける権利)を有するにとどまり,これを超えた権利ないし利益を有するとはいえないし,電話加入権が施設設置負担金相当額の価値を有するものとして保証されているということもできないのであるから,被告NTT東西において,上記の約款変更の際に電話加入者に対して施設設置負担金の一部に相当する金員を返還するなどの配慮をすべき法的義務を負っているということもできない。キ施設設置負担金の適正について原告らは,そのほかにも様々な事情を挙げて施設設置負担金の額が適正でない旨を主張するが,原告らの主張を裏付ける的確な証拠はない。かえって,@被告NTT提出に係る乙A第20号証(「第1種総合ディジタル通信サービス契約・タイプ2の提供に係る認可に際し,貴省から講じることとされた事項に対する措置について」と題する書面)によれば,平成8年度末現在で,施設設置負担金に対応する1回線当たりの増設資産額は12万6000円ないし12万9000円を要しているなどとされていること(認定事実(1)ト),A同じく乙A第5,6号証(ハローインフォメーション)においても,施設設置負担金が充当される加入者回線設備の1回線当たり投資額は約16万円とされていること(同(1)ヒ),Bこれらの数値の具体的な計算方法・計算根拠は明らかとされていないものの,被告NTTは有価証券報告書上も工事負担金ないし施設設置負担金の受入れによる電気通信線路設備の取得価額の圧縮記帳額として相応の額を計上していること(認定事実(4)),C施設設置負担金を含めた被告NTTの料金体系は,総括原価方式やプライスキャップ制度の下においてそれぞれ認可を受け,あるいは料金指数が基準料金指数を超えないとして認可を要しないものとされてきたこと(認定事実(3))に照らすと,電話加入者に対して施設設置負担金の支払を求める理由がないとか,施設設置負担金の額が適正でないということはできない。
(3) 小括
以上のとおり,被告NTTが適正料金設定義務に違反したということはできない。


4 争点2(1)イ(電話加入権料返還規定整備義務違反)について
(1) 原告らは,@被告NTTが電話加入権の交換価値を動機付けとして,電話加入者に施設設置負担金の支払を強制し,電話網の設備費用を調達してきたこと,A施設設置負担金の支払は実質的に電電債の購入と同一視できること,B連合国財産の返還等に伴う損失の処理等に関する法律や電話設備費負担臨時措置法には一定の返還規定があったことなどを根拠に,被告NTTには電話約款に施設設置負担金の返還規定を整備すべき法的義務がある旨主張する。
(2) しかしながら,被告NTTが電話加入権の交換価値を動機付けとして施設設置負担金の支払を強制したと認めるに足りる証拠はない。平成6年3月ころに,再編前の被告NTT株式会社の富山県高岡支店において配布されたパンフレットに,「いつまでも大切な財産になる」という文言が記載されていたこと(乙A17)は前記認定のとおりであるけれども,上記パンフレットには,「電話の権利は,引っ越しても,時代が過ぎても,ずっと使える」と書いてあるにとどまり,施設設置負担金相当額の交換価値が保証されている権利であるなどとは書かれていないこと(乙A17)に照らせば,これをもって,電話加入権の交換価値を動機付けとして施設設置負担金の支払を強制したと評価することはできない。また,電電債と施設設置負担金とを実質的に同一視して論じることができないこと,連合国への財産返還に伴い,財産権を没収された者に対して補償がされた件と電話加入権そのものが失われたわけではない本件とは前提を異にすることは既に述べたとおりである。
(3) したがって,被告NTTに電話約款に施設設置負担金の返還規定を整備すべき法的義務があるとは認められない。


5 争点2(1)ウ(電話加入権の価値維持ないし填補義務違反)について
(1) 原告らは,@被告NTTが電話加入権の譲渡により実質的に投下資本を回収する道を認めてきたこと,A電話加入権の財産性を前提とした各種法令,会計上の定めがあること,Bこれらを前提に,電話加入者は,電話加入権譲渡により投下資本を実質的に回収できると期待し,被告NTTもかかる期待を前提に電話加入の勧誘を行っていたことなどを挙げて,被告NTTにおいては,上記期待に沿うように,電話加入の価値を実質的に維持するか,若し
くは市場価値が維持されない場合には電話加入者に対し実質的価値を補償する信義則上の義務がある旨主張する。(2) この点について,法令ないし電話約款上,電話加入権の譲渡が認められ,被告NTTもこれを容認しており,社会実態とし電話加入権が相応の市場価格で譲渡されていたことは前記認定のとおりである。したがって,電話加入者の中には,そのことから,電話加入権の譲渡によって投下資本の回収が得られるものと期待した者もいるかと思われる。しかしながら,従前から,電話加入権価格が,需給関係によって変動していたことに照らせば,電話加入者らにおいて,電話加入権に施設設置負担金相当額の価値があると考えたとしても,それは事実上の期待にとどまるものと判断せざるを得ないことも前示のとおりである。したがって,これらの事情をもって,電話加入権が金銭債権であるとか,一定の金銭価値が保証されているなどということはできず,被告NTTにおいて,上記期待に沿うように,電話加入の価値を実質的に維持するか,若しくは市場価値が維持されない場合には電話加入者に対し実質的価値を補償する信義則上の義務が生じると解することはできない。よって,原告らの主張は理由がない。


6 争点2(1)エ(損害填補措置義務違反)について
(1) 原告らは,保険契約の規定である商法654条,646条に則して,被告NTTを保険者,電話加入者を保険契約者と見立て,施設設置負担金徴収の必要性・合理性や電話加入権の財産的価値あるいは譲渡による投下資本回収の道が失われたときには,被告NTTは施設設置負担金の全部又は一部を電話加入者に返還しなければならない旨主張する。しかしながら,前示のとおり,施設設置負担金は,既に現実に発生した工事に関する費用の一部を負担するためのものであって,保険契約において,将来一定の危険が生じないことになった場合に,保険料を減額する商法654条,646条とは前提を異にする。また,電話加入者は電話加入権を有するにとどまり,当該電話加入権につき一定の金銭価値が保証されているものではないうえ,電話加入者は,電話加入権をなお保持しているのであるから,電話加入者に損害があったとはいえず,被告NTTにおいて損害填補として施設設置負担金の全部又は一部を電話加入者に返還しなければならないと解することもできない。(2) さらに,原告らは,@施設設置負担金が電電債と実質的に同一視できること,A被告NTTが一方的に約款変更等を行ったことによって電話加入権譲渡による投下資本回収の道が閉ざされたことなどを挙げて,民法上の不当利得の規定の根底にある公平の原理及び利益衡量により,被告NTTは電話加入者に対して,損害を填補すべき信義則上の義務があるとも主張する。しかしながら,@繰り返し述べているとおり,施設設置負担金と電電債とを実質的に同一視することはできないし,A電話加入権の市場価格は需要と供給のバランスによって形成されているものであり,被告NTTにおいて電話加入権相場あるいは電話加入権の市場価格をコントロールしていたものとは認められないから,被告NTTが一方的に約款変更等を行ったことによって電話加入権譲渡による投下資本回収の道が閉ざされたということはできな
い。
(3) 以上のとおりであるから,被告NTTにおいて損害填補措置義務を負うということはできない。


7 争点2(1)オ(説明義務違反)について
(1) 原告らは,被告NTTには,施設設置負担金を徴収する理由を説明すべき義務があると主張する。また,電話加入者が新規加入契約又は電話加入権譲受契約を締結する際には,施設設置負担金は基本料の一部であり返還しないこと,電話加入権の価値は市場によって決定され,被告NTTが関与するものではないことなどについてそれぞれ説明を行う義務があった旨主張する。
まず,施設設置負担金を徴収する理由の説明義務については,施設設置負担金が電話施設の工事に関する費用の一部として位置づけられていることはその名称からも,約款からも明らかであり,説明義務は果たされているものということができる。そして,これに加え,平成16年12月のハローインフォメーション(乙A5,6)等において,施設設置負担金が敷設された電話施設の工事費用の一部に充てるものとして必要であるということは既に被告NTTによって説明済みであり,それ以上の具体的財務状況等についての詳細な説明をすべき義務については,これを根拠付けるだけの事実を認めることができない。また,施設設置負担金が基本料の一部であることを説明すべきとする主張については,電話約款上,施設設置負担金は基本料と別個に定められており,基本料の一部でないことは明らかであるから,原告らの主張は採用することができない。そして,施設設置負担金が返還されないことについては,施設設置負担金が,料金表の中に,工事に関する費用として定められ,通常「費用」は特別の事情がなければ返還が予定されていない金員であること,工事完了前に契約の解除があった場合のみ例外的に返還が認められていること(電話約款74条)から明らかであると考えられるから,被告NTTに,これに加えて特段の説明義務があるとは認められない。さらに,電話加入権の価値が市場によって決定され,被告NTTが関与するものでないということも,いわば物の取引価格が決まる際の原則形態であるから,被告NTTにおいて特段の説明義務があるということはできない。なお,原告らは,ライトプランと通常の電話加入契約とで公平性を欠かないことの説明が必要とも主張するが,これはもっぱら料金体系の在り方にかかる事項であって,特段の事情がない限り,個別の電話加入者に対して,説明義務が生じると解することはできず,原告らの主張は採用することができない。
(2) この他,原告らは,被告NTTが,電話の新規加入を勧誘するパンフレットにおいて,電話加入権を資産価値のある「財産になる」と記載し,負担金を支払っても電話を付ける価値がある,電話がいらなくなれば売却もできると説明している点を問題とする。この点については,前記認定のとおり,乙A第17号証(「じぶん電話宣言」と題するパンフレット)に,「いつまでも大切な財産になる」との記載があることが認められる。しかしながら,それに続く文章においては,「電話の権利は,引っ越しをしても,時代が過ぎても,ずっと使えるから,初めて持つ財産にぴったり。」とあることからも,電話加入権,すなわち被告NTTとの加入電話契約に基づいて加入電話の提供を受ける権利を念頭に置いて説明がされているものと認められ,説明内容に特段の問題があるとはいえない。そして,原告らの多くは,被告NTTから,電話加入権は譲渡も質入れも出来るものであるとの説明を受けたとの陳述書を提出するが(甲B1ないし171の各1),仮に被告NTTにおいて,電話がいらなくなれば売却もできると説明していたとしても,電話加入権の譲渡は法律上も電話約款上も認められていることからすれば(ただしライトプランを除く。),そのような
説明に問題があるということもできない。
(3) 以上のとおり,被告NTTに説明義務違反があったということはできない。


8 争点2(1)カ(独占禁止法違反)について
原告らは,被告NTTが長期にわたり電話事業の独占力を背景に不合理・不適当となっていた施設設置負担金の徴収を続けてきたものであり,独占禁止法で禁止されている優越的地位の濫用に当たると主張する。しかしながら,既に述べたとおり,施設設置負担金の徴収が不合理・不適当であったことを認めるに足りる証拠はなく,被告NTTが優越的地位を濫用したとも認められないから,原告らの主張は理由がない。


9 争点2(1)キ(不当利得)について
原告らは,施設設置負担金の見直しもなく,施設設置負担金相当額の補償等も行わないまま施設設置負担金を徴収する旨を定めた電話約款は,電話加入者の財産権を侵害するものであるから,憲法29条1項ないし民法90条に違反して無効であり,これに基づいて徴収した施設設置負担金は不当利得となる旨主張する。しかしながら,既に述べたとおり,施設設置負担金の徴収が不合理・不適当であったことを認めるに足りる証拠はないし,電話加入者の電話加入権そのものが侵害されているともいえないから,原告らの主張は理由がない。


10 争点2(2)ア(契約者を公平に扱うべき義務違反)について
原告らは,被告NTTは,電話約款に基づいて電話サービスを提供する場合,契約者の契約時期を問わずに実質的に公平に扱うべき信義則上の義務があるところ,施設設置負担金を半額化した際,既存の施設設置負担金を支払った契約者,半額化された施設設置負担金を支払った契約者,ライトプランの契約者について,支払うべき基本料について合理的な区別を用意せず,上記義務に違反した旨主張する。そして,b意見書には同旨の指摘があり,ネットワーク利用者という等しい立場にある契約者間の公平を保つためには,基本料も,@既存の「施設設置負担金」を支払った契約者の基本料,A半額化された「施設設置負担金」を支払った契約者の基本料,B「施設設置負担金」が半額化される前に契約した既存のライトプラン契約者の基本料,C「施設設置負担金」が半額化された後に契約がなされた新規のライトプラン契約者の基本料に分けるべきであって,既存のライトプラン契約者の基本料上乗せ部分が改定後減額されたにもかかわらず,既存の「施設設置負担金」を支払った契約者の基本料から,上記減額分に相当
する額が減額されないのは不公平である旨の意見が提出されていることが認められる(甲A43)。しかしながら,装置料(設備料)や施設設置負担金の額は,これまでも時代によって異なっており(認定事実(1)ア(ウ),エ,キ,ケないしシ,セ,ソ,フ),公平に扱うといっても自ずと限界があること,平成17年3月の被告NTT東西による施設設置負担金の半額化は,固定電話を取り巻く当時の環境の変化,他事業者との競争対抗上の必要性も踏まえた一定の合理性が認められるものであることからすれば,既存の施設設置負担金を支払った契約者と,新たな施設設置負担金を支払った契約者との間に,3万6000円の負担の格差が生じることまでは合理的な範囲内であると判断されたことに不合理な点は認められない。そして,この場合,既存のライトプラン加入者についても,基本料の加算額を値下げせず,据え置くとの選択肢もあり得るけれども,この場合,@同時期に,同サービスを利用しているにもかかわらず,同じライトプランで料金が異なることによる電話加入者の不公平感が生じること,A既存のライトプラン加入者が,従来の契約を解約し,新規のライトプランに切り替えることによって値下げ後の料金による利益を享受しようとすることへの対応が必要となること等を勘案して,既存のライトプラン加入者については,半額化後の基本料金加算分を値下げする案を採用したとしても不合理とは言えず,料金体系の組み方には,不合理でない限りある程度の裁量が許されると解されることに照らせば,公平に扱うべき義務違反には当たらないと解される。よって,被告NTT東西が施設設置負担金を半額化した際に原告ら主張のような基本料プランを設けなかったことをもって信義則上の義務に違反したということはできない。


11 争点2(3)(解除に基づく原状回復請求)について
原告aは,電話約款において,契約者回線の工事完了後の契約解除を理由とする施設設置負担金の返還請求に関しては必ずしも明確に規定されておらず,「疑わしきは約款作成者の不利に」という解釈原則が適用されるべきことなどからすると,加入電話契約解除の際には,原状回復の一環として,解除される契約を新たに締結するとみなした場合の施設設置負担金相当額が契約者に返還
されると解釈すべきである旨主張し,これに沿う証拠としてb意見書(甲A第43号証)を提出する。しかしながら,既に述べたとおり,電話約款においては,74条但書の場合を除き,施設設置負担金が返還されることは予定していないと解されるから,
原告aの主張はその前提を欠き,b意見書は採用することができない。


12 争点3(1)ア(ア)(総務省の適正料金設定監督義務違反)について
(1) 原告らは,郵政省・総務省は,@施設設置負担金の返還を規定する法案の策定をせず又は同旨の約款を作成するよう指導せず,A電話積滞解消時において施設設置負担金の徴収を止める法案等を国会に提出せず,BINSネット64・ライトの認可をしつつ施設設置負担金を維持した料金体系を取り消さず,Cドライカッパ開放の法律改正及び約款の認可をしつつ施設設置負担金の認可の取消し又は廃止をせず,D加入電話ライトプラン導入約款の認可をしつつ施設設置負担金の徴収約款の変更命令等をせず,E施設設置負担金の徴収を続ける電話約款の変更命令や料金変更命令権限を行使せず,かつ何らの補償制度を設けることなく半額にする約款を認可するなどして,公衆電気通信法等から導かれる適正料金設定監督義務に違反したから,被告国には債務不履行責任又は国家賠償責任がある旨主張する。
(2) しかしながら,繰り返し述べてきたとおり,被告NTTが電話加入者から施設設置負担金の支払を受けてきたことが不適正・不合理であったと認めるに足りる証拠はないことからすると,@ないしEの時点で,郵政省や総務省の公務員に,施設設置負担金の見直しをするよう監督すべき義務違反があったと認めることはできない。また,前示のとおり,電話加入者に施設設置負担金の返還請求権が認められたり,あるいは電話加入権が施設設置負担金相当額の価値を有するものとして保証されていることを根拠付けるに足りる事実を認めることはできないこと,上記電話加入者が電話加入権を保持し続けている以上,当該電話加入者の権利ないし利益が侵害されたとはいえないこと,被告NTTの料金設定に不合理な点を認めるに足りる証拠はなく,被告NTTに適正料金設定義務違反は認められないことからすると,郵政省や総務省の公務員において,原告らが主張するような法案の策定ないし提出,認可の取消や電話約款の変更命令などを行うべき法的義務があったということもできない。
(3) したがって,郵政省や総務省の公務員が適正料金設定監督義務に違反したとの原告ら主張には理由がない。


13 争点3(1)ア(イ)(総務省による期待権侵害)について
原告らは,電話加入者は,もともと電話加入権に既払の施設設置負担金相当額の価値があることを信じて電話加入をしたものであるところ,郵政省・総務省がその信頼を裏切り,電話加入者に対する補償なしに不利益な施策転換をしたことは,不法行為を構成する旨主張する。しかしながら,既に述べたとおり,電話加入者は,電話加入権(加入電話契約に基づいて加入電話の提供を受ける権利)を有するにとどまるのであって,原告らが主張するような期待権を法的保護に値する権利ないし利益として有しているということはできない。したがって,電話加入者に対する保証なしに施設設置負担金を半額化するなどの被告NTTの行為が,原告らに対する不法行為を構成するとは言えず,この点について,総務省に不法行為が成立するとも言えない。


14 争点3(1)ア(ウ)(総務省において減価償却立法案を作成しない違法)について
原告らは,総務省は,企業者たる電話加入者の利益保護のため,無価値に等しくなった電話加入権につき損金控除を認めるような減価償却立法案を作成する義務があったと主張する。しかしながら,国家賠償法1条1項は,国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別に国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を加えたときに,国又は公共団体がこれを賠償する責に任ずることを規定するものであるところ(最高裁昭和60年11月21日第一小法廷判決・民集39巻7号1512頁),総務省の公務員において,個別の原告らとの関係において,原告ら主張の減価償却立法案の作成を行うべき職務上の注意義務を負うと解する法的根拠はないから,原告らの主張は採用することができない。


15 争点3(1)ア(エ)(総務省の説明義務違反)について
原告らは,被告NTTは,施設設置負担金の返還を行わないことなどについて電話加入者に対する説明義務を果たしていないところ,総務省は,被告NTTに対し,上記説明を行うよう指導すべき旨を主張する。しかしながら,既に述べたとおり,被告NTTが説明義務に違反していると認めることはできないから,総務省に上記説明を行うよう指導すべき義務があるとも言えず,原告らの主張は前提を欠いて理由がない。


16 争点3(1)イ(ア)(財務省がNTT資金法の成立を阻止等しなかった違法)について
原告らは,本来であればNTT資金は電話加入者に還元されるべきところ,大蔵省・財務省はNTT資金法の成立を阻止することなく,電話加入者に対する還元の方策を打ち出さなかったことをもって違法であると主張する。そして,被告NTTの保有する電話網は,電話加入者が装置料,設備料,工事負担金,施設設置負担金として拠出してきた金員によって拡充されたもので
あるから,その資産は国民共有の財産であって,その費用を負担した電話加入者らに還元されるべきであると主張する。しかしながら,被告NTTの保有する電話網が,電話加入者らの負担した施設設置負担金によって拡充されてきた面があるからといって,直ちにNTT資金を電話加入者らにに還元すべきであるとは言えず,さらに,大蔵省・財務省の公務員に,原告らに対する関係で,国会による法律の制定を阻止したり,個別の方策を打ち出す義務が生じるとは言えないから,原告らの主張は理由がない。


17 争点3(1)イ(イ)(財務省が総務省・被告NTTに損失補償ないし損害賠償を求めない違法)について
原告らは,施設設置負担金が半額化されたことに伴い,国の保有する財産たる電話加入権が少なくとも半額に減少・毀損されたにもかかわらず,財務省が被告NTTに損失補償ないし損害賠償を求めず,また監督官庁である総務省に対し是正措置を求めないのは違法である旨主張する。
しかしながら,繰り返し述べたとおり,電話加入者に施設設置負担金の返還請求権が認められたり,あるいは,電話加入権が施設設置負担金相当額の価値を有するものとして保証されていることを根拠付けるに足りる事実を認めることはできないこと,電話加入権そのものが失われていない以上,電話加入権の市場価値が低下したからといって財産権が侵害されたということはできないこ
とからすれば,国の電話加入権が違法に減少・毀損されたと言うことはできず,原告らの主張は前提を欠いて理由がない。


18 争点3(1)イ(ウ)(財務省において減価償却立法案作成等の措置をとらない違法)について
原告らは,現在において,電話加入権の価値はゼロに等しくなっており,企業会計上電話加入権を非償却資産として計上することを義務付けている税法との整合がとれなくなっており,遅くとも平成16年11月の時点で減価償却立法等の措置をとるべきであったにもかかわらず,財務省において電話加入権につき減価償却立法等の措置を講じなかった違法がある旨主張する。しかしながら,財務省の公務員において,原告らとの関係において,原告ら主張の減価償却立法等の措置を講じるべき職務上の注意義務を負うと解する法的根拠はないから,原告らの主張は理由がない。


19 争点3(1)ウ(公正取引委員会の責任)について
原告らは,被告NTTが長期にわたり電話事業の独占力を背景に不合理・不適当となっていた施設設置負担金の徴収を続け,独占禁止法で禁止されている優越的地位の濫用を行ってきたことを前提に,公正取引委員会が適切な勧告を行わずにこの事態を放置してきた旨主張する。しかしながら,既に述べたとおり,被告NTTによる施設設置負担金の徴収が不合理・不適当であり,被告NTTがその優越的地位を濫用してきたことを認めるに足りる証拠はないから,公正取引委員会において適切な勧告を行うべき義務があったとも認められず,原告らの主張は前提を欠き,理由がない。


20 争点3(1)エ(国会の責任)について
原告らは,電話加入権はそもそも電電公社に対して有する資本的性格を有していたものであって,昭和60年の民営化の際に立法により株式に転換されるべきものであったところ,国会はこの立法措置を怠り,電話加入者の財産権を違法に侵害したなどと主張する。しかしながら,公衆電話通信法31条が電話加入権につき「加入電話加入者が加入電話加入契約に基づいて加入電話により公衆電気通信役務の提供を受ける権利をいう」(丙A2)としていたことからすると,昭和60年の民営化以前においても,電話加入権とは加入電話契約に基づいて加入電話の提供を受ける権利をいうものであったと認められ,ほかに電話加入権が株式に転換されるべきものであったと認めるに足りる証拠はない。したがって,国会が電話加入権を株式に転換する立法措置を取る法的義務を
負っていたとしても,同措置が取られなかったことによって,電話加入者の権利ないし利益が侵害されたということもできない。


21 争点3(2)(憲法29条3項に基づく直接補償請求)について
原告らは,電話加入権の毀損により被った損害を填補するため,本件において憲法29条3項に基づく直接補償が行われるべきであると主張する。しかしながら,繰り返し述べたとおり,電話加入者は,電話加入権,すなわち加入電話契約に基づいて加入電話の提供を受ける権利を有するものであるところ,当該電話加入権を保持し続けている以上,その市場価値が低下したことのみをもって財産権の侵害があったということはできず,憲法29条3項を適用する余地はない。したがって,原告らの主張は理由がない。


第4 結論
以上によれば,原告らの請求は,その余について判断するまでもなく,いずれも理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。


東京地方裁判所民事第30部
裁判長裁判官秋吉仁美
裁判官大嶺崇
裁判官古谷真良__


 

サイトマップ お問い合わせ Privacy policy
copyright(c)2007 山田会計事務所 All Rights Reserved